コラム 2016.06.13. 18:00

【白球つれづれ】地方の時代

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中京学院大―中央学院大 5回中京学院大1死満塁、山崎の2点打で生還する二走・吉川(C)KYODO NEWS IMAGES

「白球つれづれ」~第12回・大学野球~


 先週末、中日のGMである落合博満と神宮球場で久しぶりに談笑した。全国大学野球選手権大会の熱戦が展開されていた。

 「日本中のどこにでも足を伸ばしているよ。それがオレの仕事だもの」

 ドラゴンズの一軍の戦いは現場に任せて、もっぱらファームやアマチュアの現場に顔を出して次なるチーム作りに余念がない。

 天才打者・落合の目に今年の大会はどう映ったのだろうか? 何せ、明治大や亜細亜大と言った優勝候補の強豪は早々と姿を消す波乱続きの展開。ベスト4には優勝を果たした中京学院大をはじめ、中央学院大、奈良学園大、上武大と地方の無名校が躍進したのだ。地方創生、一億総活躍社会を掲げる安倍内閣より一足早くアマ野球の世界では「地方の時代」がやってきた。

 初出場初優勝の偉業を達成した中京学院大の舞台裏を覗くと、漫画的なほどにドラマチックで涙ぐましい。学校は岐阜県中津川市にあるが野球部の寮も専用球場もなし。部員の大半は週に2~3日はアルバイトで生活費を捻出しているという。1勝が目標という今大会も2泊3日の旅程で出発。1着しかユニホームの用意がないから決勝を前に穴があいてもお構いなし。というよりそれで通すしか手がなかったのだ。


地方の躍進とその要因


 大学野球の勢力図をおさらいするまでもなく、これまでの中心は常に東京六大学と東都大学の両連盟が握り、これに関西野球連盟や首都大学あたりが続いてきた。プロ野球のドラフト上位もこれらの出身が大半を占めている。ところが近年になると様相は大きく様変わり、無名と言われた地方の学校の躍進が著しい。大学選手権の最近10年の優勝校を見てみると東京六大学が4度、東都が3度と圧倒しているものの、首都が1度に地方校が2度。特に直近の5年では上武大(13年)や今年の中京学院大が頂点に立つなど、もはや地方格差はなくなりつつあると言っても過言ではない。

 「まだ、個々の力の差はあるけれど、六大学や東都とその他の学校ではこの大会に懸ける熱が違う。普段から注目を浴びている選手と違ってここで活躍して評価を上げたいという思いがあるから一発勝負に強い」と、あるスカウトは語る。しかし、それだけなら10年前でも20年前でも事情は一緒。それ以外の今風の背景を自分なりに分析してみる。

【1】伝統よりノビノビ
今の若者は伝統や格式に縛られるのが苦手。名門校にありがちな先輩と後輩の人間関係の煩わしさもない。

【2】特別推薦枠
近年、有名私大のスポーツ推薦入学枠は他競技部との争奪戦もあり野球だけが多くを獲得することは困難。逆に地方私大の方が人数や早めの時期に合格を出すなど融通が利く。

【3】施設の充実
中京学院は例外だが多くの私大では専用球場や寮などが完備。近年では北海道や東北の寒冷地でもハンデキャップは少なくなっている。逆に都会に比べて誘惑も少なく野球に打ち込める。

 阪神の金本知憲監督やかつての「大魔神」佐々木主浩は東北福祉大出身。昨年安打のシーズン日本記録を打ち立てた西武・秋山翔吾が八戸大なら、広島の菊池涼介はまさに中京学院大OBだ。

 その東北福祉大出で昨年から母校の監督に就任したのが元西武の大塚光二。今大会にも駒を進め注目を集めたが惜しくもベスト8で上武大にサヨナラ負けを喫した。

 「今は大会に出てくるチームはどこも力をつけているし勝ち上がるのは大変ですね」と紙一重の戦いを振り返る。

 地方のノーマークの学校が中央の主役を次々に食っていった下剋上の世界。
都会への一極集中や過疎に悩む人々に大学球児が新たな風を送り込んだ。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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