「白球つれづれ」~第7回・巨人が迎えた曲がり角~
セ・リーグのペナントレースが混迷を極めている。
今季ここまでで首位に立ったことがあるチームは巨人、阪神、広島に中日の4球団。下位に低迷していたヤクルト、DeNAも上昇気配を見せており、これからますます混戦模様になりそうな気配だ。
通常、開幕から1カ月も経てば上位と下位のチーム力の差は明らかになっていくものだが、今季ばかりはどのチームも「帯に短しタスキに長し」状態で抜け出す力がない。さて、最後に先頭でゴールテープを切るのはどこになるのか?
好スタートも抜け出せなかった新生・巨人
そんな中、最も頭を痛めているのは高橋巨人だろう。開幕前から一部選手による賭博行為などで激震が走ったものの、いざ戦いが始まると順調に貯金を積み重ねてきたが、ここへ来て急ブレーキ。先週末の中日戦では早くも今季2度目の同一カード3連敗を喫した。
とりわけ、投手陣の崩壊は目に余るばかり。同カードの初戦には、昨年の育成ドラフト8位・長谷川潤を起用せざるを得ないほどで、つまり戦力が底をついたことを露呈したに等しい。
原辰徳前監督の後を継いだ高橋新監督のもと、新たな船出となった巨人。チームスローガンは「一新」。これまでの主力だった阿部、内海らの衰えは顕著になり、FAで獲得してきた杉内、大竹らのベテラン投手も故障で出遅れ。加えて昨年2人で21勝を稼ぎ出したマイコラスとポレダまでもが現状二軍で調整となれば、戦う布陣を望むのが無理というものだ。
“年俸ランキング”でも首位陥落...
なぜ、名門球団はここまでのピンチを迎えてしまったのか?
そう考えてみたとき、先頃発表された“ある数字”が興味深い。プロ野球選手会が明らかにした、球団別の年俸ランキングである。
チーム別トップはソフトバンクの41億7577万円に対し、2位の巨人は32億9853万円。選手の平均年俸でも、6960万円のソフトバンクに対して巨人は5787万円とここでも水をあけられている(※ともに外国人選手は除く)。1988年の調査開始以降、初めてソフトバンクが名実ともにNo.1球団へと躍り出たというわけだ。
長い巨人の歴史を振り返れば、その戦力補強はあくなき勝利の追求とともに「強奪」さえ厭わぬ足跡を残してきた。
別所毅彦(南海)、金田正一(国鉄)らの他球団エースを陣容に加え、ドラフト制度になると江川卓と「空白の1日」を利用して電撃契約(※のちに阪神とのトレードで獲得)。FAに目を転じれば落合博満に清原和博、小笠原道大といったパリーグの主砲を獲得してきた。
戦力的にそこまで補強の必要がなくても、ライバルに行かれるなら囲い込んだ方が得策とさえ計算したとまで言われる。それだけの圧倒的な資金力がその背景にはあったのだ。
転機は「2011年のドラフト会議」にあった?
また、強くてスーパースターもいるからこそ球界の盟主を自認してきたが、現状では主力が衰え、FAも有効な手が打てない上に球界を代表するスーパースター自体が見当たらない。
ある元巨人関係者にいわせれば、ドラフト戦略にも首を傾げる。
「チーム戦力を考えたとき、日本シリーズで戦える選手を常に獲得していくこと。1年たりとも怠ると歯抜けになっていく」。この観点で最近10年のドラフト1位を見てみよう。
すると合格点は坂本勇人(2006年)、長野久義(2009年)、沢村拓一(2010年)、菅野智之(2012年)、小林誠司(2013年)の5選手くらいか。甲子園や神宮で人気を集めたスター候補生の指名も、沢村や坂本、岡本の名が挙がる程度である。
ある他球団のスカウトはこうも言う。
「巨人の誤算は、11年のドラフトにある。この年、菅野の一本釣りを狙ったが日本ハムの指名にあい、結局巨人入りは1年後となった。この年は大谷翔平(日本ハム)や藤浪晋太郎(阪神)、則本昂大(楽天)、小川泰弘(ヤクルト)と当たり年。もし、前年に予定通りに菅野を獲れていれば、この中から誰かを指名できたわけです」。
ちなみに、菅野に代わる11年の外れ1位といえば、賭博事件で無期限失格となった松本竜也である。今となってはこの差はあまりに大きい。
抜本的な大改革を...
先月、巨人はキューバ国内リーグの打点王であるホセ・ガルシア外野手の獲得を発表した。
支配下と育成契約を含めると、助っ人だけで12人を数える。これだけ外国人選手を獲れば、二軍でも生え抜き若手の出番が減ってしまうのは目に見えている。
「育てながら勝つ」――。これまでの反省も踏まえ、新たな挑戦に取り組む高橋巨人。海の向こうのメジャーリーグでも、名門ヤンキースが同じような事情で低迷している。
時代の曲がり角なのかも知れない。だが、抜本的な大改革をしない限り、盟主の復活もまたありえない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)