快進撃を続ける菅野、好調の要因は…?
巨人・菅野智之が絶好調だ。
5月5日の広島戦で今シーズン7度目のマウンドに登ると、試合前までリーグNo.1のチーム打率を誇っていた広島打線を翻弄。7回に天谷に2ランを浴びて実に41イニングぶりとなる自責点を記録するも、2失点完投で無傷の4勝目。防御率は悪化しても未だ0.79という圧倒的な数字を記録している。
今年でプロ入り4年目。昨年まで3年連続で2ケタ勝利をあげ、2年目の2014年には防御率2.33で最優秀防御率のタイトルを獲得。昨シーズンは2年連続のタイトルこそ逃すも、防御率は1.91。年々数字を改良している。
進化が止まらない巨人のエース。菅野の好調の要因を考えていきたい。
“魔球”の習得
今年の春のキャンプ、ひとつの“魔球”が話題になった。「ワンシーム」と呼ばれるボールである。
速球の種類のひとつで、純粋な直球は「フォーシーム」、打者の手元でシュート気味に食い込む変化をするのが「ツーシーム」である。
そして話題の「ワンシーム」だが、簡単に言えばシンカーのような変化をする速球。右打者ならば内に食い込みながら落ちるようなボールになる。有名な使い手といえば現在はレンジャーズでプレーするダルビッシュ有がその一人だ。
菅野は過去にも挑戦していたが、本格的に取り組んだのは今春のキャンプだったという。2月下旬のオープン戦では、ヤクルトの山田哲人を試投。ひっかけさせてショートゴロに打ち取り、「行ける」と手応えをつかんだようだ。
そんな“魔球”修得の甲斐あってか、ストレート系の被打率は昨年の.283に対し、今年はここまでで.167と劇的に改善。左右別の被打率でも昨年は右打者に対して.210だったのが、今年は.145と圧倒している。
すべてが「ワンシーム」のおかげというわけではないのだろうが、ここまでの好調を支えるひとつの転機となったことは間違いない。
キャンプで見せたハイペース調整
プロ入りからの3年間は、キャンプでスロー調整を続けてきた菅野。しかし、この春は例年にないハイペース調整を取り入れた。
初日から捕手を座らせ、重いボールを多投。キャンプ中盤には、すでにシーズン中のコンディションに持っていったという。
「時間がもったいない」というのが最大の理由だった。実戦モードで練習をしなければ意味がない。そんな新たな自覚のもと行った取り組みが、ここまでのスタートダッシュを支えている。
あとはこの調子をどこまで維持できるのか。大事な試合が増えてくる夏場から終盤に差し掛かった頃、菅野がどんな状態で投げているのかを見ていきたい。
原辰徳監督の退任
菅野の身の回りに起こった最も大きな変化かもしれない。
自分に置き換えて考えてみよう。会社に入社したら、直属の上司が親戚だった。それも最高の権力を持った上司だ。
決して口にだすことはなかったが、「ちょっと、照れるな…」と同時に、「何となくやりにくいな…」そう思うことだってあるかもしれない。いや、たぶん、そうだろう。
そんな中での原監督の電撃退任は、もちろん寂しさもあったろうが、逆に“1人立ち”するチャンスとも捉えられる。
プロの厳しい世界においてそんなことはあり得ないのだが、やはり「贔屓」があると見ていたファンもいただろう。そんな人々の手のひらを返していくには、実力で自らの真価を証明するしかない。そんな決意も、菅野を奮い立たせる新たな力となったのではないだろうか。
“防御率0点台”への挑戦...
ここまで7試合・57イニングを投げて自責点は5。防御率は0.79。一口に防御率0点台というが、これはものすごい記録なのだ。
1970年、今から46年前のこと。“ザトベック投法”でおなじみの阪神・村山実が、防御率0.98を記録した。1950年以降では、この1度しか規定到達者のシーズン防御率0点台というのは出ていない。
1試合投げて、1点すら取られないということ…。約半世紀前に作られた偉大な記録は前人未到なものだと思われたが、今年の菅野にはそのチャンスが十分にある。
まだ気は早いが、「0.98」を目指して…。菅野の快進撃はどこまで続くのか。見守っていきたい。