白球つれづれ~第14回・広島と巨人~
「神ってる」という新語が最近の各メディアを賑わせている。
まさに“神がかり”的な働きを現すことばで、元祖というべき男は広島の新星・鈴木誠也だろう。
6月17、18日のオリックス戦で2日続けてのサヨナラ本塁打を放てば、翌19日の同カードでは同点の8回に今度は勝ち越しの一発。これでチームの勢いはさらに加速した。
そのカープが、先週末はDeNAを相手に猛打爆発。貯金は今季最多タイの16で、2位・中日に10ゲーム差は36年ぶりという快進撃である。
広島と巨人の気になるデータ
ここに興味深い数字を紹介する。
▼ 打率
広 .268(1位) / 巨 .246(5位)
▼ 防御率
広 3.42(2位) / 巨 3.72(5位)
▼ 盗塁
広 70個(1位) / 巨 24個(6位)
▼ 総得点
広 379点(1位) / 巨 250点(6位)
▼ 総失点
広 292点(1位) / 巨 307点(4位)
上記は広島と巨人のチーム成績の比較である。()内はリーグでの順位。
好調な赤ヘル軍団はどの部門をとってもいい数字が並ぶのに対し、苦しむ巨人はすべてにおいて低調な数字が並ぶ。しかし、とりわけ注目したいのは、盗塁と総得点の両軍の大きな開きである。
実はここにこそ今季の広島の快進撃の秘密が隠されているのだ。
“ニュー赤ヘル”の新戦略
「1点をもぎ取る野球」を昨年の秋季キャンプから主要なテーマとして取り組んできた緒方カープ。またの名を「意味のある凡退」とも呼ぶ。
どんなに優れた好打者であっても、10回打席に立てば7回近くは失敗する。仮に無死二塁の時、次打者が安打を放てば問題ないが、先に記したとおり確率は良くても3割程度だ。
ここで、三振かポップフライなら局面は変わらない。だが、右方向へのゴロや大きな飛球なら一死三塁とすることができる。そうなると、次打者は犠牲フライでなくてもボテボテの内野ゴロでも得点できる。さらに相手の立場に立てば、暴投や捕逸、エラーでも失点につながる。
要は「二塁走者はいかに次の塁を狙っているか?」。打者は「いかに得点の確立を上げる打撃を心掛けるか?」ということ。
こうした意識付けを若手だけでなく、新井貴浩やエクトル・ルナのようなベテランにまで徹底。その結果、「自分で決めるという以上に、次に繋ぐといういい循環になっている」とクリーンアップを任される丸佳浩は言う。
菊池涼介や丸という2人に加え、1番に定着した田中広輔に鈴木誠也など、走れるタレントは揃っている。そこへ「ヒットでなくても意味のある凡打ならオーケー」と首脳陣が説くことにより、打席内での余裕を与えているのだ。
“急行”と“各駅停車”の差
次の塁をどん欲に狙っていく赤ヘルに対して、巨人の現状はというと目を覆いたくなるほどの拙攻の連続である。
7月2日のヤクルト戦。毎度のようにエース・菅野の好投を見殺しにしてきたチームは、ようやく7回二死一、二塁で代打の大田が右越え二塁打を放って同点とする。
ところが、一走の実松が本塁で憤死。同点どまりとなると、その直後にヤクルト・山田哲人に決勝本塁打を浴びて敗れた。
もし仮に、実松のところに代走のスペシャリスト・鈴木尚広を送っておけば……?たらればではあるが、展開は変わったはず。
さらに別の場面でも、一塁に出塁していた長野久義が次打者の右前打で大西三塁コーチャーがゴーサインを出しているにも関わらず二塁でストップ。ビッグチャンスを逃したというシーンもあった。
特に4番の長野以下、阿部慎之助に村田修一、ギャレットと続く下位打線はまるで足の使えない“各駅停車”。これでは3連打でも得点に結びつかないケースも出てくる。安打以外の得点の取り方がないのでは、高橋監督の悩みも深刻だ。
かつて西武の黄金時代には、主砲の秋山幸二や清原和博にもヒットエンドランのサインが出た。スキのない走塁が相手投手にとって何よりの脅威になることを知り尽くしていた智将・森祇晶ならではの攻略術だった。
ひとりの打者任せでなく、全員の意識で攻めるニュー赤ヘル。快速急行に陰りは見えそうにない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)