控え投手からエースに上り詰めドラ1指名
プロ初勝利を飾るまでに時間のかかった岡田明丈(広島)が、今季11試合目のマウンドとなった7月9日の阪神戦で、プロ2勝目を挙げた。
今季開幕前、オープン戦で好調だったこともあり、即戦力としての評価はさらに高まっていた。ただ、ドラフト1位指名されたとはいえ、岡田の球歴は決して華やかに彩られたものではない。岡田は東京都練馬区の出身。プロの選手のなかでは珍しく、野球をはじめたのは中学時代と遅い。当時は軟式野球部で三塁手を務めていた。野球のルールもよく知らず、バッターボックスから三塁に向かって走ったというエピソードも残している。
投手に転向したのは大阪商業大学高進学後だ。3年夏にはストレートの球速が140キロに伸び、背番号10ながら、大阪大会全6試合の先発を任された。3回戦の八尾戦で1安打完封するなど好投を見せるも、準々決勝で強豪・大阪桐蔭に完敗。甲子園出場経験はない。
大阪商業大進学後は、1年春から関西六大学野球リーグ戦に出場したが、その後は登板機会がなく、先発陣の一角に食い込んだのは3年秋からだ。すると、秋季リーグでランキング4位の防御率2.17の好成績を残し、メキメキと頭角を現した。
4年春のリーグ戦では開幕から31回連続無失点を記録し、45回1/3を投げて失点はわずか3。3完投2完封で6勝をマークし3季ぶりの優勝に導くと、続く秋季リーグでも防御率1.00で無傷の6勝を挙げ、2季連続優勝に貢献。ストレートは最速153キロにまで伸び、エースに上り詰めた男は、一躍ドラ1候補に名乗りを上げた。
成績に見合った勝利がついてくれば広島独走が加速する!
少年時代から周囲の注目を集めるようなエリートとはまったく異なる野球人生を歩んできた。プロ初勝利まで9試合を要したのは、苦労人の岡田らしいとも言える。
とはいえ、プロ初登板以来、いつ勝ちがついてもおかしくない投球を続けてきたことも事実。現在、防御率は3.03。初勝利直前の3試合はいずれも勝敗はつかなかったが、岡田自身は20回を投げて喫した失点はわずか3だ。やきもきしたファンも多かっただろう。記念の勝利でようやく力投が報われた。
チームがこれまでに挙げた51勝のうち、岡田がもたらした勝利は確かにわずか2勝である。しかし、岡田のチームへの貢献度は勝利数だけでは測れない。開幕前、多くの評論家が広島を下位に予想していたが課題は明白。渡米した前田健太の穴をどう埋めるか。これを見事にやってのけているのが岡田なのだ。
前田といえば、過去4度の200投球回を達成するなど、屈指の“イニング・イーター”として知られる。これまでに岡田が投げたイニングは、ジョンソン、黒田博樹、野村祐輔に次ぐチーム4位の62回1/3。しかも、ただ投げているだけではない。6回を自責点3以内に抑えるQS(クオリティ・スタート)率は72.7%。100%のジョンソンは別格としても、両リーグトップの10勝をマークしている野村の64.3%、日米通算200勝まで残り1勝に迫った黒田の71.4%を上回る数字を残している。
安定した投球で先発ローテーションに定着する。これが、どれほどチームを助けることになることか。しかも、たとえ勝利に恵まれなくとも大崩れすることもなく、ルーキーながらマウンド度胸も据わっている。これから岡田の成績に見合った勝利がついてくれば、いよいよ広島の独走に拍車がかかりそうだ。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)