日本でも活発な“フラッグディール”を!
「7月31日」――。メジャーリーグにおけるこの日は、その年のプレーオフだけでなく、数年先のチームの運命を変え得る日にもなる。しかし、日本でこの日が大きな意味を持つ日であると認識しているファンは、ごくわずかだろう。
トレード期限。ざっくり言うと、日米ともに「トレードなどによる選手譲渡可能期間が終了する日」である。
メジャーでは、レギュラーシーズン終了まであと約2か月となるその時期を境に、各チームの方向性が2つに別れる。その年のプレーオフを狙うチームと、諦めて翌年以降へ向けた戦いを考え始めるチームである。
“フラッグディール”とも呼ばれ、メジャーではごく一般的なものとなっている「トレード」であるが、日本のプロ野球では年に数回程度しかなく、根付いているとは言い難い。
プロ野球界のそもそもの考え方や各球団の様々な思惑があるのだろうが、日本でも活発なフラッグディールが行われるべきだと考えるファンも少なくないだろう。
千載一遇のチャンスを迎えている広島
今年のプロ野球界で言えば、広島はフラッグディールを仕掛けるべき状況にあると言える。
混戦セ・リーグの首位を走る広島は、現在25年ぶりの悲願へ向けた大きなチャンスを迎えている。
主力選手を見ても、野手では菊池涼介と丸佳浩による“キクマルコンビ”の看板に加え、切り込み隊長の田中広輔、成長著しい鈴木誠也らがおり、投手でもローテーションの軸として働いている野村祐輔に守護神・中崎翔太など、生きのいい20代の選手が中心となっている。
一方で黒田博樹に新井貴浩、石原慶幸といったチームを支えるベテラン選手も未だ第一線で活躍を見せており、よく言われる“ベテランと若手の融合”がよくできている状態なのだ。
広島といえば、現在12球団で最も優勝から遠ざかっているチーム。上述のベテラン選手たちに美酒を味わってもらいたいと思う関係者やファンも多いことだろう。大混戦のリーグを抜け出していくために、大胆なフラッグディールに打って出る価値は十分にある。
混戦を抜け出すためのピースとは...
また、多くの将来有望な若手選手たちがファームで奮闘しているというのも魅力的なポイントのひとつだ。
野手であれば野間峻祥や土生翔平、桒原樹、下水流昂。投手ならば西原圭大あたりが他球団なら一軍で活躍していてもおかしくないような成績を残している。
あとはネームバリューという点で、オールスター3度選出の実績を持つ堂林翔太あたりを含めた4~5人を要員としたトレードを模索してみるというのはどうだろうか。
もちろん、多くのファンが期待を寄せる背番号「7」だけに、ファンの心情的にはあり得ないことなのは承知しているが、メジャー的な考え方では大いにあり得る。
見返りとしては、当然野手ならクリーンアップを打てる選手、投手ならばエース級の選手を獲得するのが妥当。しかし、広島はすでにリーグ屈指の打線を誇っており、先発投手も黒田にジョンソン、野村と3本柱がそろっている。抑えも昨季後半戦以降は中崎が安定しており、補強ポイントは一見なさそうだ。
とはいえ、“混セ”を抜け出すにはもうワンパンチ欲しい…。そこで候補に挙げたいのが、オリックスの金子千尋だ。
2014年オフに4年総額20億円という超大型契約を結んだものの、昨季は故障もあり7勝に終わった。今季もここまで3勝4敗、防御率3.79と厳しいシーズンになっているが、新たな環境に身を置くことで沢村賞を獲得した2年前の投球を思い出す可能性も十分ある。
さらに5月以降は防御率2.92と徐々に調子は上がっており、“4本目の柱”として広島に加入すれば、今のソフトバンクとも十分渡り合えるチームになり得る。金子の高額な年俸や有望な若手選手の放出など、リスクも当然高いが、25年ぶりの優勝へ向けて手を打つなら今年だ。
広島とオリックス、両球団のファンからは悲鳴が上がること必至だが、プロ野球ファンとしては数年に一度でも「えっ!」と声が出るようなトレードなどを目撃してみたいもの。“悲願”へ向けた広島の動きに注目したい。
文=八木遊(やぎ・ゆう)