プロ4年目の今季一気に飛躍
週末のマツダスタジアムはこの男の独壇場だった。
カープの背番号「51」――。鈴木誠也である。
オリックス戦で17日・18日と2日連続のサヨナラアーチ。さらに19日にも8回に10号決勝ソロアーチを放つ大活躍。本拠地で3日連続のお立ち台に上がった21歳の若武者は「最高でーす!」と絶叫してみせた。
二松学舎大付高から12年ドラフト2位で広島入団。高校時代の鈴木を見たある球団のスカウトは「3年後には中島裕之(現オリックス)になれる」と評価したほどの逸材。順調に成長し、4年目の今季は3割を越える打率に二桁本塁打、すでに7盗塁を記録しており、将来のトリプルスリー達成も期待されている。
実は広島では、過去にも「プロ4年目の飛躍」を果たし、チームの中心選手として定着した野手が多い。今回は90年以降の主なカープ4年目野手の成績を振り返ってみよう。
【広島の野手・プロ4年目の飛躍】
・江藤智(関東高・88年5位)
1992年:89試合 打率.289 16本塁打 45打点 2盗塁 OPS.879
・前田智徳(熊本工高・89年4位)
1993年:131試合 打率.317 27本塁打 70打点 10盗塁 OPS.945
・金本知憲(東北福祉大・91年4位)
1995年:104試合 打率.274 24本塁打 67打点 14盗塁 OPS.896
・新井貴浩(駒沢大・98年6位)
2002年:140試合 打率.287 28本塁打 75打点 1盗塁 OPS.855
・丸佳浩(千葉経済大附高・07年3位)
2011年:131試合 打率.241 9本塁打 50打点 9盗塁 OPS.678
・鈴木誠也(二松学舎大付高・12年2位)
2016年:57試合 打率.315 10本塁打 39打点 7盗塁 OPS.953
※()内は出身校とドラフト指名順位。
※鈴木の16年成績はチーム71試合消化時。
4年目の飛躍を経てチームの中核へ
のちに本塁打王にも輝く江藤は、4年目の92年シーズンに前年の打率.215から289へと大きく打撃成績を上昇させ、16本塁打を記録。翌93年には34本塁打で初のホームランキングに輝く。
この江藤と90年代に強力赤ヘル打線を形成した鉄人・金本は、プロ4年目に初の規定打席に到達。24本塁打を放ちレギュラーの座を手中に収めた。
その弟分の新井もプロ4年目の02年シーズン、140試合にフル出場し初の規定打席に到達すると長距離砲として開花、持ち前のパワーを武器に自己最多の28本塁打でオールスターにも初選出されている。
鈴木と同じ近年の高卒野手では、07年高校生ドラフト3巡目の丸佳浩のケースがある。丸はプロ4年目の11年シーズンに前年の14試合から131試合へと大きく出場機会を増やし、外野の一角として定着。13年から3年連続でゴールデングラブ賞を受賞中のリーグを代表する外野手のひとりだ。
伝統の“強かった赤ヘル”の復活
『赤ヘル偉人伝』(白夜書房)の中で、元広島の高橋慶彦氏は70年代後半から80年代の広島黄金時代を振り返り、こう話している。
「強かった頃のカープは個々の集合体。レギュラーが固定されてて、専門職が9人集まった感じだよね。1+1が2じゃなかった。それぞれが自分の仕事をすることで3にも4にも5にもなってた」[『赤ヘル偉人伝』(白夜書房)引用]
そして今、12球団トップの70本塁打・334得点と圧倒的な得点力を誇り、セ・リーグ首位を走るチームでは「1番ショート田中・2番セカンド菊池・3番センター丸」の不動のオーダーを軸に、プロ4年目の94年生まれ鈴木誠也という若き逸材も開花した。
2016年、伝統の強かった頃の赤ヘル打線が復活しつつある。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)