MVP級の活躍を見せる鯉の主砲
マジック「4」――。いよいよ25年ぶりの優勝に向けて秒読み段階に入った広島。その中心にいるのは、39歳の4番バッターだ。
新井貴浩。男は筒香嘉智(DeNA)や山田哲人(ヤクルト)といった若きスター選手たちを抑え、打点リーグトップをひた走っている。
ここまで117試合の出場で打率.302、17本、96打点はまさにMVP級の働き。阪神在籍最終年の14年シーズンは打率.244、3本塁打に終わり、現役引退も囁かれていたことを考えると、復活というレベルを超えて、まるで39歳の今が全盛期と言っても過言ではない大活躍である。
“40歳スラッガー”たちの成績は...
今季4月末に通算2000安打、8月初旬には300本塁打を達成した新井は1977年の1月生まれ。来季には“不惑”を迎えるわけであるが、今回は過去に日本球界で活躍した「40歳のスラッガー」たちの打撃成績を振り返ってみよう。
【過去の40歳スラッガー】
・野村克也(南海/75年)
129試 率.266 本28 点92 OPS.817
・王 貞治(巨人/80年)
試129 率.236 本30 点84 OPS.803
・張本 勲(ロッテ/80年)
試102 率.261 本12 点39 OPS.710
・山本浩二(広島/86年)
試126 率.276 本27 点78 OPS.847
・衣笠祥雄(広島/87年)
試130 率.249 本17 点48 OPS.730
・門田博光(南海/88年)
試130 率.311 本44 点125 OPS1.062
・落合博満(中日/93年)
試119 率.285 本17 点65 OPS.885
・山崎武司(楽天/08年)
試142 率.276 本26 点80 OPS.842
・金本和憲(阪神/08年)
試144 率.307 本27 点108 OPS.919
・小久保裕紀(ソフトバンク/11年)
試98 率.269 本10 点48 OPS.741
・稲葉篤紀(日本ハム/12年)
試127 率.290 本10 点61 OPS.762
・中村紀洋(DeNA/13年)
試122 率.281 本14 点61 OPS.761
※()内は40歳時の所属チーム
40歳のシーズンに44本塁打を放った門田
もはやNPBを代表する歴代スラッガーといった豪華な顔触れだが、驚くべきことに40歳で30本塁打を記録した王貞治(巨人)や27本塁打を放ちチームを優勝に導いた山本浩二(広島)、130試合にフル出場を果たした衣笠祥雄(広島)らは、これだけの成績を残しながらこのシーズン限りで引退している。一昔前は「40歳が現役生活の区切り」だったのだろう。
そんな球界の常識を打ち破ったのが、88年の門田博光(南海)である。
40歳で迎えたシーズンに44本塁打、125打点の二冠を獲得し、さらにパ・リーグMVPにも輝く大活躍。南海ラストイヤーを派手に飾ってみせた不惑の大砲は、オリックスに移籍した89年(41歳)にも33本、90年(42歳)も31本と40代の本塁打記録を更新し続けた。
そして、この門田に負けじと40歳の08年に26本、41歳で39本、107打点を記録したのが山崎武司(楽天)だ。山崎は通算403本塁打だが、その半数以上の218本塁打を35歳過ぎてから放っている。
こうして見ると、近年は40代で活躍する選手が増えた。スラッガータイプではないが、松井稼頭央(楽天)も昨季10本塁打、14盗塁と40代での2ケタ本塁打&2ケタ盗塁が話題となり、現在躍進しているカープの投打の中心にいるのも黒田博樹と新井貴浩という2人の“アラフォー”選手だ。
もしかしたら、86年にミスター赤ヘル・山本浩二がチームの優勝を花道に余力を残して現役引退したように、黒田博樹も偉大なる先人と同じ道を辿る...なんてこともあるかもしれない。
忘れられない“最強助っ人”
さて、最後にもうひとり、球史に残る40歳のスラッガーを挙げておきたい。
タフィ・ローズ(オリックス/08年)
試142 率.277 本40 点118 OPS.977
近鉄時代の01年に55本塁打を放った最強助っ人は、巨人退団後の06年春に一度は現役引退を表明。ところが、07年春にオリックスの入団テストを受ける形で日本球界に復帰。巨人時代にFA権を取得し、すでに日本人選手扱いのローズは約1年のブランクがありながらいきなり42本塁打を放つと、翌年の40歳のシーズンには40本、118打点で打点王に輝いた。
通算464本塁打。NPB史上、外国人選手として来日した助っ人野手で400本塁打を超えたのはタフィ・ローズただひとりである。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)