コラム 2016.10.03. 20:35

【白球つれづれ】西武新監督・辻発彦の背負う十字架

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西武・辻発彦新監督

白球つれづれ~第26回・辻発彦~


 王国復権へ向けて「伝説の名手」が帰ってきた。辻発彦が実に21年ぶりに古巣・西武ライオンズ復帰だ。3日に行われた監督就任会見では早速、ち密でスピード感のある野球で来季からの巻き返しを誓った。

 「球際の強さが不足している」。ふがいない戦いで早々にペナント戦線から離脱していったチームに対してオーナーである後藤高志から苦言が呈されたのは夏場を過ぎた頃だった。

 直前に開催された西武ホールディングスの株主総会では「外部からの人材登用」といった注文まで株主から出されている。球団内では成績不振の責任をとって監督の田辺徳雄の退任はやむなしとされてきたが、当初はヘッドコーチである潮崎哲也への内部昇格が有力視されていた。

 だが、ここまでチームの弱体化が進むと生ぬるい改革では済まされない。潮崎の場合はチーム衰退の最前線にいたのだからその責任もある。こうして、抜本的な改革の出来る指導者として白羽の矢を立てられたのが往年の守備の職人である辻だった。


常勝軍団を支えた“職人”


 西武の黄金期である1980~90年代にかけて名二塁手として鳴らした。ゴールデングラブ賞8度の受賞は今でも二塁手としては歴代最多。93年には首位打者も獲得している。さらに87年に行われた対巨人の日本シリーズ第6戦にあの伝説のプレーが生まれた。

 二死一塁から秋山幸二の放った中前打で巨人のWクロマティーの緩慢な守備を見逃さずに一塁から長駆生還。この時の走者こそ辻だったのだ。秋山、清原和博らの大砲や渡辺久信、工藤公康、郭泰源らのエースだけでなく辻や石毛宏典といった職人たちが鉄壁な軍団を支えていた。


深刻な病巣


 黄金期の輝きが眩しいほど低迷期の闇は深く暗い。今季の戦いの跡を振り返る。64勝76敗3分けで優勝した日本ハムからは23ゲーム差をつけられた。クライマックスシリーズ出場権である3位のロッテにも7ゲーム差。かつての定位置だった優勝圏内からは果てしなく遠い。

 チーム本塁打こそリーグトップながら同防御率と盗塁は4位。同失策に至っては101個でワーストだ。「病巣」ははっきりしている。一発頼りの打線は迫力あるが、走れない、守れない、の現状では王国の復権など夢のまた夢である。

 1点でも多くとって1点でも少なく失点を防ぐ。洋の東西を問わず野球の強化のイロハだ。どの監督だってこの部分に腐心する。


人材と戦略の齟齬


 「あの顔ぶれを見たらこんなところにいるチームじゃない」とは就任前に辻が西武に対して抱いた感想。確かに秋山翔吾、浅村栄斗、中村剛也、Eメヒア、森友哉と続く打線は破壊力がある。岸孝之、菊池雄星、牧田和久らの投手陣も駒不足ではあるが将来性豊かな多和田真三郎や高橋光成らの人材も揃っている。

 要は将棋に例えれば飛車や角はいるが「つなぎ役」ともいうべき桂馬や香車がいないのだから戦略的な戦いは望めない。前述したチーム記録以外に見逃してはならないのは記録に表れない組織力である。「点」でなく「線」としていかに戦えるか?

 仮に無死一、二塁の攻撃。バントで送ろうとするが送れない。やむなく強行すると併殺。このケースでも強いチームと大きな差が出る。バントの成功率以外に右打ちを徹底して最低でも進塁打とする。内野ゴロでも走者の足が速ければ併殺は防げる。守りの要である遊撃手の固定と強化も急務の課題だ。


待ち受ける大仕事


 金子侑司の右翼コンバートは成功に見えるが、今度は鬼崎裕司や永江恭平、呉念庭らが帯に短し、襷に、の状態。日本ハムと広島の優勝チームを見れば二遊間が堅い守備を誇り、走って守れる人材が揃っている。オーナーが注文する球際に強く、1点差に競り勝つ野球を標榜するならフロントも含めた人材の育成と発掘への意識改革も必要となる。

 元西武監督の伊原春樹は辻新監督への期待をこう語る。「彼なら守る、走るといった指導ができる。それと厳しさも植え付けるんじゃないかな?」。

 西武で森晶祇、ヤクルトで野村克也、中日で落合博満と常に勝者のメンタリティーを学んできた。長いコーチや二軍監督のキャリアをどう生かしていくか? 今月24日で58歳になる。まだまだ老け込むには早い。「辻の大改革」という大仕事が待っている。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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