近年減少の一途をたどる“盗塁”
2015年、昨季のメジャーの盗塁王って誰だっけ? そう聞かれてもピンとこない人がほとんどだろう。正解は、ア・リーグがホセ・アルテューベ(アストロズ)で38盗塁。ナ・リーグがディー・ゴードン(マーリンズ)で58盗塁だ。
右打ちのアルトゥーベは前年の14年、01年のイチロー以来となる首位打者(.341)、最多安打(225)、盗塁王(56)のトリプル受賞を達成。ゴードンも昨季、首位打者(.333)、最多安打(205)、盗塁王(58)でトリプル受賞を果たしており、現状ではこの2人がメジャー最高の“韋駄天”だと言えるだろう。
日本のプロ野球でもそうなのだが、近年は盗塁数が少なくなってきた。
もちろん、プロ野球とメジャーでは盗塁の単純比較はできない。たとえばメジャーの場合、大量リードしている場面で一塁ランナーが盗塁をしても、公式記録員は盗塁を記録しないのだ。この場合、一塁手がベースに付いていないことで、野手選択、つまりフィルダースチョイス(FC)となるのだという。
日本では、どんなに大量リードしていようが、盗塁は盗塁という考え方。文化の違いと言ってしまえばそれまでだが、そんな文化の違いが、メジャーの盗塁数が伸びない要因の1つと思われる。
しかし、かつてのメジャーには、とんでもない“韋駄天”がいた。
足でメジャーを席巻した男たち
まずは、リッキー・ヘンダーソン。左投右打という珍しいタイプだが、「メジャー最高のリードオフマン」の異名を持ち、とにかく出塁率が高かった。
82年シーズンには大記録を打ち立てる。その数、何と130盗塁(149試合)。これは、今でもメジャー最多記録だ。ちなみに、日本でシーズン100盗塁超えといえば、阪急の福本豊が72年に106盗塁(122試合)の日本記録を樹立している。
通算盗塁数に関しては、福本の1065盗塁に対して、ヘンダーソンは1406盗塁。実働年数や試合数に差はあるものの、7年連続を含む12度の盗塁王を獲得。最後に盗塁王に輝いたのは98年で、その時ヘンダーソンは39歳。66個の盗塁を決めたというから驚きだ。
盗塁以外にも先頭打者本塁打81本、通算得点2295など、歴代1位の記録をいくつも保持している。背番号「24」はアスレチックスの永久欠番だ。
ヘンダーソンが登場するまでは、ルー・ブロックが「盗塁の神様」だった。
74年には、シーズン118盗塁をマーク。8度の盗塁王に輝き、通算938盗塁。79年にカージナルスで現役を引退し、背番号「20」は永久欠番になっている。
そして意外な選手も足が速かった。“球聖”と呼ばれたタイ・カッブだ。
通算安打数で、あのピート・ローズに上回られるまではメジャー歴代1位だった4191安打を放ち、通算打率も.366という驚異的な数字。歴代1位に君臨し、打率4割超も3度達成している。
そんなカッブの通算盗塁数は892個。これは歴代4位の記録になる。盗塁王には6度輝き、5年連続で50盗塁以上も記録した。
「足にスランプなし」
足が速い選手は魅力的だ。ただの四球が、二塁打にも三塁打にもなる。「打者にはスランプがあるし、投手にも不調なときがある。だが、足にスランプはない」と、ある野球関係者が言ったことがあったが、本当にその通りだ。
近年は投手のクイックモーションの登場や捕手の守備力の向上などもあり、そうやすやすと次の塁を盗めなくなってきているというのはたしか。それでもまた年間で100個以上の盗塁を成功し、ダイヤモンドを駆けまわるような“韋駄天”が登場することに期待してしまう。
ちなみにメジャーでは、1985年から1987年にかけて3年連続で100盗塁以上を記録したビンス・コールマン(カージナルス)以降、100盗塁以上を記録した選手は表れていない。近年では、09年のジャコビー・エルズベリー(レッドソックス)の70盗塁が最高だ。
今年はここまでアルテューベが4盗塁(6試合)を決めてトップに立っており、2年連続の盗塁王獲得へ良い滑り出しを見せている。盗塁数を増やすためには高い出塁率が必要であり、そういった意味では、打棒にも定評のある“小さな巨人”には大きな期待がかかる
他のタイトルと比べるとやや影が薄くなりがちな“盗塁”という項目に注目だ。