二軍で打率リーグトップの中川

　東北楽天の二軍は、イースタンリーグに所属している。いわゆるファームと呼ばれるリーグだ。その楽天が4月13日現在で、13勝3敗1分、勝率.823で首位を快走。そして全17試合に出場し、中川大志が、好調な楽天を引っ張っている。ここまでのファームでの打撃成績は、53打数20安打、打率.377と驚異的な成績を残す。2本塁打、14打点と長打力、勝負強さを発揮している。

　2008年ドラフト2位で楽天入団。愛知・桜丘高では1年時から4番を任され、高校通算32本塁打。186センチ、92キロと恵まれた体格を生かした長打力が持ち味だった。09年、初めてのキャンプのときは、山崎武司らから打撃指導を受けた。「ここ数年では、あれだけ飛ばせる選手はいない」と山崎も惚れ込んだというから、楽天生え抜きのホームランバッター誕生は近いと思われた。

　だが、プロの壁は厚かった。ファームでは、まずまずの打撃を見せたが、守備が課題。三塁と一塁で、毎年20～30失策を犯すほどだった。11年には、ファームで打点王を獲得したが、一軍は終盤までクライマックスシリーズ進出を争っていたことで、一軍昇格が見送られた。さらに、右膝を故障。12月に同カ所を手術した。そして、同年、育成選手になることが発表された。中川にとって試練だった。

　12年は、シーズンの大半をリハビリ。シーズン終了後に自由契約選手となったが、秋季キャンプに参加。そこで、存在感を示し、ふたたび支配下契約。支配下登録復帰を果たした。そして、15年に転機が訪れた。5月に一軍に昇格すると、21日の日本ハム戦で初めて4番を経験。31日の巨人戦でプロ初のサヨナラホームランを放つなど、本領発揮。当時の大久保監督は「銀次と同じくらいの練習量が、中川を支えている」と認めるほど豊富な打撃練習が、中川を再生させたのだ。

　試合前のティー打撃練習は当然として、中川は試合後もスイングの軌道を確認するためにティー打撃を敢行。遠征先の宿舎でも毎晩、素振りを欠かさない。14年には、豪州のウインターリーグに参加。妻子を日本に残し、単身で豪州に乗り込んだ。心身ともにたくましくなった。誰よりも多くバットを振り、誰よりも長く練習場に居残る。そんな姿勢が昨年の序盤に開花。

　一軍で27試合に出場した時点では打率.309、5本塁打と結果を残し、ブレイクしかけたが、その後は不振に陥った。最終的には、62試合に出場し、打率.235、5本塁打。自己最高の成績にはなったが、まったく満足できる数字ではなかった。

　迎えた今季は、不退転の決意で挑む。まだ一軍でプレーをしていないが、今季をラストチャンスと位置づけ、昇格を虎視眈々と狙っている。ファームでは、前述のとおり、大活躍しており、一軍昇格は時間の問題。一軍生き残りをかけた戦いが、本当の勝負になる。

　楽天の日本人長距離砲は、自前では育っていない。山崎武司、中村紀洋らは他球団からの移籍組。外国人の大砲で、急場をしのぐのもいいが、楽天が常勝チームになるためには、中川が一人前の4番打者に成長することが大事になる。中川の一軍昇格、そして一軍での活躍に期待したい。