国立大学出身者の宿命?
あっという間に1年も半分を消化しようと言う今日この頃。上半期のアマ球界を盛り上げた人物といえば、東京六大学野球で旋風を巻き起こした東大のエース・宮台康平だろう。
六大学の並み居る強豪を苦しめた左腕は、7月に開催される日米大学選手権の侍ジャパンメンバー24名にも選出。今やキャスターとしての印象が強い大越健介さん以来、実に33年ぶり2人目となる東大からの日本代表入りを果たしたことでも話題を呼んだ。
これから大会が近づくにつれて、その注目度もこれまで以上に上がっていくことは容易に想像がつくが、そんな“フィーバー”ぶりを見て思い起こされる一人の男がいる。ロッテの2年目右腕・田中英祐のことだ。
“京大くん”と呼ばれた男の今
「ロッテの田中」と聞いていまいちピンと来ない人であっても、「京大くん」と聞けば一発で分かるのではないか。多くのメディアで“京大”の文字とともに紹介され、大きく取り上げられた日本プロ野球界初の京都大学出身選手である。
ルーキーイヤーの昨季は2試合に登板も、6イニングで自責点が9。防御率13.50とプロの壁に跳ね返された。そして迎えた2年目の今季は、ここまで一軍・二軍ともに登板なし。彼は今、自分自身と戦っている。
2月のキャンプでのこと。そこには手ぬぐいを片手にシャドーピンチングを繰り返す田中の姿があった。
一から投球フォームを見つめなおし、投球練習は捕手を立たせて直球一本。体全体の連動性を見直し、リリースの瞬間にしっかりとボールに力を伝えられるようなフォーム作りに力を注いだ。
プロ入り後にフォームを改造するということは、選手からすればそう簡単に受け入れられることではない。これまでの野球人生や練習方法を否定されるような気持ちになる上、失敗しても元に戻すことが出来ない可能性だってある。
それでも田中は受け入れた。迷った末に入ったプロ野球の世界で結果を残すために。
どんな秀才も失敗から学ぶ
かの名将、野村克也氏の著書のなかにこんな言葉が出てくる。
「素直な気持ちがない選手は伸びないし、楽な道に進もうとすれば、成長することはない。失敗を恐れてはいけない、失敗から学んで次に進まないといけない。私は失敗と書いて、“せいちょう”と読むようにしている」 [『野村再生工場』(角川グループパブリッシング)から引用]
ちょうど今の田中に響く言葉ではないだろうか。
田中は理系。工学部工業化学科に現役合格したという。卒論のテーマは「表面力測定装置における水和構造の逆計算理論」。...詳しくは分からないが、おそらく野球に関係がないことだけは確かだろう。
そういえば、かつての野球漫画にこんな場面があったことを思い出す。
『本塁打は物理学で説明できる。水平よりややアッパースイングの方が本塁打の弧線を描ける』、『投手の投げるボールも物理学の範疇。こう投げると、こう曲がる』などなど...。
なるほど、と思ったこともあった。ただし、「物理学の権威が本塁打王になったことはないと」思い直す。
球界トップの頭脳を持った2年目右腕は、いかにしてこの苦境から這い上がるのか。今度は実力で、もう一度“京大旋風”を――。京大初のプロ野球選手・田中英祐の挑戦をしかと見届けたい。