敵として帰ってきたかつてのエース
5回裏、二死走者なし。ダイヤモンドバックスのベンチからチップ・ヘールが飛び出すと、ドジャー・スタジアムは大歓声に包まれた。
観客たちの視線の先には見慣れた整った顔。しかし、着ているユニフォームの色が違う。ザック・グリンキー。かつてこの場所をホームとしていたメジャー屈指の右腕である。
指揮官にボールを受け渡し、男がマウンドを去ると、球場中から割れんばかりの歓声とばかにしたような声が飛び交った。
凱旋を許さないドジャース打線の“本気”
ロサンゼルスで数々の栄誉を掴んだ右腕が移籍を決めたのは、昨年12月のこと。6年総額2億650万ドル(現在のレートで約214億円)。年平均にして3442万ドル(約36億円)。目の飛び出るような大型契約でダイヤモンドバックスに移籍した。
そして迎えた、移籍後初めてとなるドジャー・スタジアムのマウンド。そこに待ち受けていたのは、昨年までチームメイトだった選手たちからの洗礼だ。
ドジャースは4回、先頭のシーガーが二塁打で出ると、4番のゴンザレスがライトスタンドへ叩き込む2ランで先制に成功。5回にも一死から8番のペダーソンがセンターへのソロを放つと、これを引き金に打線が爆発する。
9番の前田健太が内野安打で繋ぐと、トップに返ってアットリーも安打で続き、2番・シーガーが左中間スタンドへの3ラン。さらに続くターナーもレフトへのソロを放つと、一人アウトを挟んでグランダルがライトスタンドへアーチを描き、この回だけで4発を浴びせる猛攻。一気に6点を挙げ、かつてのエースをKOした。
グリンキーは4回2/3、96球でKO。9安打を浴びて8失点。被本塁打5はキャリアワーストの数字であった。
代わりに来た“助っ人”も文句なしの投球
さらにこの日のドジャースファンを喜ばせたのが、前田健太の好投だ。
加入当初は「とても一人でグリンキーの穴を埋められるような投手ではない」という見方がほとんどであったが、この日の勝利で14勝目(8敗)をゲット。球団の新人最多勝利記録に並ぶなど、今や投手陣の柱の一人として堂々たる成績を残している。
味方の大量援護に恵まれたとはいえ、常に比較されてきた右腕との投げ合いに勝った。しかも、相手は6年総額で2億650万ドルの男だ。
ちなみに、前田は8年総額2500万ドル(約26億円)という契約でドジャースに入団している。もちろんこの金額は出来高を含めていない“保証額”ではあるのだが、それでも8年間の総額がグリンキーの年平均にも遠く及ばないというのだから恐ろしい。
出て行ったかつてのエースに5発を浴びせ、そのエースの代わりに加入した“助っ人”が白星を挙げるという文句なしの快勝。ドジャースファンにとって笑いの止まらない1日となったに違いない。