今年一番変わったこと
早いもので2016年も残り2カ月を切った。10月29日の土曜日には日本シリーズが終了し、プロ野球のシーズンが終了。これから長く寂しいオフの期間に突入する。
振り返ってみると今年もいろいろなことがあった野球界であるが、中でも大きな変化と言えば「リプレイ検証の拡大」がそのひとつではないだろうか。
つい先日まで行われていた日本シリーズでも、それを象徴するようなシーンがあった。10月23日、マツダスタジアムで行われた日本シリーズの第2戦。この試合の流れを決めたのは「リプレイ検証」だったと言っても過言ではない。
流れを決めた「リプレイ検証」
1-1の同点で迎えた6回裏。広島は無死二塁のチャンスで菊池涼介が打席に入る。広島としては是が非でも勝ち越し点が欲しい場面。バントに警戒が高まる中、菊池はバスターを敢行。打球は狙った通りにがら空きの三遊間を破る。
打球がレフトへと抜けていく間に、二塁走者の田中広輔が本塁へ突入。ところが、日本ハムのレフト・西川遥輝から好返球が返り、ホームはクロスプレーに。間一髪アウトの判定がなされた。
しかし、ここで広島ベンチから緒方孝市監督が登場。すると審判が全員集められ、ネット裏へと消えていった。今年1年ですっかりお馴染みとなった「リプレイ検証」である。
中断の後、責任審判からの説明が行われると、スタンドからは大歓声が上がった。捕手・大野奨太のタッチよりも早く田中がホームに触れていたことが確認され、判定がアウトからセーフに覆ったのだ。
これで完全に押せ押せムードになった広島。動揺する日本ハムバッテリーを突いて3点を追加し、この回一挙4得点。最終的には5-1で勝利を収め、本拠地で2連勝スタートを飾ったのだった。
そもそものキッカケは...
今シーズンからその範囲が拡大された「リプレイ検証」。本塁クロスプレーでの事故を防止する新ルール「コリジョンルール」の導入に伴い、ホーム上の攻防も「リプレイ検証」の対象となったのだ。
「コリジョンルール」や「リプレイ検証」に関しては、シーズン中にも散々物議を醸してきた。導入元年だけにある程度の混乱は予想されていたとは言え、シーズン途中に慌ててルールの修正が行われるなど、見る側もプレーする側も困惑するシーンというのが多々あった。
ちなみに、日本シリーズでリプレイ検証が行われたのは初めてのこと。加えて翌日の新聞で大野のミットが田中のヘルメットを叩いた瞬間の写真が掲載されたことにより、「実はタッチしていたのでは...?」という疑惑が浮上。この問題は再び物議を醸した。
ファンも解説者も同意見?
今回のプレーに関して最も興味深かったのが、その時テレビ中継の放送席にいた解説者の発言である。
リプレイ検証に入ると、テレビ中継でもスロー映像が繰り返し放映される。その映像を見ていたある解説者は、「ビデオで見るとセーフになるでしょう」としつつ、「だけどこれだけの良いプレーをセーフにするというのもね、ちょっとどうかなと思いますよね」というコメントを残した。
さらに判定に時間がかかっていると、今年こういった場面が多々あったことを振り返りながら「野球の醍醐味がなくなってしまいますよね...」とつづけ、これには別の解説者も「これだとアンパイアがいりませんからね」と否定的な意見を被せた。
「審判も人間なのだから...」とはよく言われたもので、そういった判定も含めて“野球”という考え。正確な判断を求めていちいち試合を止めてしまうくらいならば、ひとつひとつのプレーの魅力を殺さないでくれという想いを抱いたファンは少なくないことだろう。
ここでの解説者たちの発言は、それとほぼ同意見だと言える。いちファンではなく、解説者という肩書きを持つ歴とした“野球関係者”の中にも、ファンと同じ意見を持つ人がいるというのは実に興味深い。
球界の未来のために
多くの課題が見つかった『リプレイ検証拡大』元年の2016年。何よりも大切なのは、今年の反省を未来へと活かしていくことだ。
メジャーにならった「チャレンジ制度」の導入を求めるものや、「いっそビデオなんてなくしてしまえ」というもの、さらには「もう全部機械で判定したら良いのに」などなど、様々な声が聞こえた2016年。こういった声を無視することなく、ひとつひとつに耳を傾けて解決に取り組む必要がある。
より良い野球界の実現のために。よりファンが楽しめる野球界にしていくために。この1年の経験を無駄にしてはならない。