プロが見た田中正義
今年のドラフト会議の目玉といえば、5球団競合の末にソフトバンクへと進んだ創価大・田中正義だろう。
最速156キロを誇る右腕は、昨年夏に行われたユニバーシアード日本代表壮行試合でNPB選抜から衝撃の7者連続三振をマーク。若手主体のチームだったとは言え、同世代でプロへと進んだ選手たちをなぎ倒していく姿は見るものに大きなインパクトを与えた。
「選手の間でも、田中くんは注目の的でしたね」と語るのは、2015年まで日本ハムでプレーをしていた増渕竜義氏。実は二軍時代の練習試合で田中擁する創価大と対戦していたのだという。
野手陣がビビった剛球
日本ハムの二軍時代に、練習試合で創価大と対戦したことがあります。その時の先発投手というのが、忘れもしない田中正義投手でした。
実際に対戦した野手たちがベンチで騒いでいたことが思い出されます。
「球が重い」
「あの投手、なかなか打てないぞ」
ただでさえ野手がこんな弱気なことを言うのは珍しいのに、相手は大学生ですから。投手陣も注目して見入っていました。いったいどんな球を投げるのかと、私を含めみんな彼の投球にくぎ付けになったのを覚えています。
当時からすごいボールを投げていました。何がすごいかというと、まず球威。打席に立っていなくとも、打者の手元で伸びるような勢いを感じさせていて、素直にすごかったです(笑)
そのスピードボールはもちろん魅力なのですが、私が一番驚いたのは彼のマウンド度胸ですかね。プロ相手にもストレートでグイグイ押してくる投球スタイル、まったく物怖じすることなく淡々と投げ込んでいく佇まい。「この選手、ただものじゃないな」と感じたのをはっきり覚えています。
“人間力”に期待
今年のドラフト会議も見ていましたが、人間的にも素晴らしい選手だなということを再確認しました。
記者会見の受け答えを見ても、あれだけ大勢の報道陣を前に余裕すら感じさせるような落ち着きぶりで、しっかりした選手だなぁ...と。
創価大学のグラウンドには、「輝け!人間野球」というスローガンが大きく掲げられています。野球だけではなく、人間力が大事という事なのでしょう。
プロの世界でもそうで、いくら野球の技術があっても、人間的にダメな選手はなかなか大成しません。野村克也さんの言葉にも、「人間的成長なくして、技術に進歩なし」というものがあります。
そういった点で、創価大からプロに行った選手は活躍している選手が多いと思います。これはひとえに技術だけでなく、人間力を鍛えられて入ってきたからこそなのでしょう。
田中くんもあれだけの実力と素材に加え、創価大で培った人間力ですから、きっとすごい選手になることでしょう。私も心から応援したいと思っています。
▼ 増渕竜義・プロフィール
株式会社King Effect代表取締役。1988年5月3日生まれ、28歳。
同期に田中将大(ヤンキース)や前田健太(ドジャース)がいる“88世代”。
埼玉の公立校・鷲宮高校で1年生からエースとして活躍。
3年時には最速147キロをマークしたが、甲子園出場経験はなし。
2006年の高校生ドラフトで西武とヤクルトから1位指名を受け、抽選の結果ヤクルトに入団。
2013年までの7年間で先発・中継ぎに活躍し、通算157試合に登板した。
2014年にはトレードで日本ハムへと移籍。2015年に現役を引退。