コラム 2014.10.20. 12:10

プロ6年目で開花した“天才” 阪神・上本博紀の球歴とは…

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チームでは2009年の赤星以来、5年ぶりに20盗塁をマークした阪神・上本博紀選手 © KYODO NEWS IMAGES INC

チームの危機を救った天才プレーヤー!


 2014年シーズンを2位で終えた阪神。3位の広島を甲子園で迎えたCS第1ステージでは昨年のリベンジを果たし、ファイナルステージでは巨人にまさかの4連勝で日本シリーズ進出を決めた。

 開幕3戦目となる3月30日の巨人戦では、フライを追った西岡剛と福留孝介が激突。東京ドーム内に救急車が入る非常事態で、西岡はそのまま戦線離脱。そんな窮地を救ったのが上本博紀である。2008年ドラフト3位で入団した6年目。173センチ63キロと小柄だが、中学、高校、大学と、天才肌の内野手として名を馳せてきた選手だ。

 出身は広島県。福山市立松永小学校時代は「松永ソフトボールクラブ」に所属。松永中学校時代は、全国屈指の強豪軟式クラブ「松永ヤンキース」でプレーした。4歳下の弟・崇司(現・広島)と大田泰示(現・巨人)も同クラブ出身で、非常に厳しい指導だったと振り返っている。

 中学卒業後は、県内屈指の強豪・広陵高校へ。同校では16年ぶりとなる1年生レギュラーとして、夏の広島県大会で9打点を記録。背番号4をつけ、甲子園でもセカンドを守った。そこから4季連続で甲子園出場を果たし、2年春のセンバツでは優勝。上本は1番・セカンドとして打率.571、三振0を記録した。なお、このときの広陵バッテリーは、3年の西村健太朗(現・巨人)と白濱裕太(現・広島)。決勝戦の相手は、成瀬善久(3年/現・ロッテ)と涌井秀章(2年/現・ロッテ)の二枚看板を擁する横浜高校(神奈川)だった。

 2年夏の甲子園(2回戦敗退)を終え、最上級生となった新チーム。翌春のセンバツ出場を決めたものの、白濱の後釜キャッチャーが決まらない。そこで中井哲之監督が指名したのが、不動のセカンド・上本。主将として甲子園で勝つことを考えていた上本は、「やらせていただきます」と即答したという。年明けから本格的に練習を始め、わずか2カ月後のセンバツでは背番号2、キャッチャーとして出場。初戦敗退となったが、際立つ野球センスを披露した。

 3年夏は本来のセカンドに戻るも、5季連続甲子園出場はならず。ドラフト候補として名前があがる中、選んだのは東京六大学の名門・早稲田大学への進学だった。


初めての挫折を経てつかんだ「自分の居場所」で躍動


 早稲田大でも1年春からセカンドのレギュラーを獲得し、ベストナイン選出。大学4年間で、高橋由伸(慶應義塾大→巨人)以来2人目となる「1年春から4年秋までのリーグ戦全試合フルイニング出場」を達成した。リーグ戦優勝5回、3年時は大学選手権優勝。4年春には、大一番の早慶戦においてホームスチールで決勝点を奪うなど、記録においても記憶においても、充実の大学野球生活を終えた。

 当時の野球専門誌は「人ができないサプライズを大舞台でやってのける天才。プロしか似合わない」などと絶賛。秋のドラフトでは、チームメートの松本啓二朗(現・横浜)、細山田武史(現・ソフトバンク育成)と共に指名を受け、阪神に入団した。

 しかし、プロで初めての挫折を味わう。1年目は2軍で88試合、打率.241。1軍出場は3年目の67試合がキャリアハイ。いよいよと期待された5年目の昨季は、2月に行われた日本代表との強化試合で左足首靱帯損傷、手術。責任感、使命感が強いタイプだけに、苦しい日々を送った。

 だが、今季は逆の立場として、西岡の負傷離脱による代役でセカンドに定着。大学時代、「横着してしまう」と語っていた守備では1試合3失策を記録するなど、足を引っ張ることもあった。また5月3日の試合では、守備中に右手親指を負傷して離脱。それでも、5月20日に戦列復帰。そこから9月27日の試合の7回まで、フルイニング出場を果たした。終わってみれば、打率.276(リーグ18位)、20盗塁。阪神の選手が20盗塁以上をマークするのは、赤星憲広氏が2009年に記録して以来、5年ぶりである。

 しかし、初めてレギュラーとして過ごしたシーズン終盤は不調に陥り、スポーツ紙は「息切れ」「尻すぼみ」などと書かれた。見かねた和田豊監督はCS直前にマンツーマン指導。「(疲労感も)吹っ切ってCSに入っていかないと」と期待をあらわにした。和田監督が去った後も練習を続けた上本は、短く「頑張ります」とコメント。迎えたCS第1戦は不動の1番ではなく、慣れない2番で4打数3安打。第2戦は無安打に終わったが、上昇気流をつかんだようだ。

 大学時代から「一番やりやすい」という1番を打ち、愛着のある背番号4をつけてセカンドを守る。さらに、高校、大学での主将に続き、今季からは選手会長に就任。すべてにおいて自分の居場所を得た天才プレーヤーが、1985年以来、29年ぶりの日本一へとチームを導いていく。

文=平田美穂(ひらた・みほ)

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