ピンポイント補強で来季こそAクラスへ
FA権行使の期限である11月11日が迫る中、積極的な動きを見せているのがヤクルトだ。
2年連続の最下位に終わったチームの補強課題は明確である。今季、パ・リーグ覇者・ソフトバンクに1厘差に迫る12球団2位のチーム打率.279を記録した強力打線を擁しながら、チーム防御率は4.62とダントツの最下位。
要因は投手のコマ不足に尽きる。開幕直後に故障した館山昌平のほか、小川泰弘、村中恭兵らの離脱が尾を引き、規定投球回到達者は石川雅規ただ一人。その石川も7年ぶりの防御率4点台に終わるなど、先発陣の立て直しは急務だ。
また、盤石に見える野手陣にも穴はある。今季、遊撃手で先発出場したのは、西浦直享、森岡良介、今浪隆博、川島慶三、荒木貴裕、谷内亮太の6人。内野守備の要ともいわれるポジションを固定できていないのだ。
投手と遊撃手、その補強課題をクリアすべく、ヤクルトが獲得に動くと見られるのが、成瀬善久(ロッテ)と大引啓次(日本ハム)。巧みな投球術で通算90勝を積み上げてきた先発左腕に、高い守備力と勝負強い打撃で日本ハムの遊撃レギュラーをつかんだ職人。ピンポイント補強ともいえる二人の獲得は是が非でも実現したいところだ。
また、広島を退団することが発表されたキャム・ミコライオの獲得調査にも乗り出しているとの報道もある。守護神・バーネットの不安定な投球もヤクルトの泣きどころの一つ。今季終盤にこそ打ち込まれる場面が見られたが、3シーズンにわたり広島のクローザーを務めてきた助っ人もまた喉から手が出るほど欲しい選手だろう。
宮本慎也の引退以降空席が続くチームリーダー
ただ、先発投手に遊撃手、クローザー、それらはあくまでAクラスを争うために必要な“戦力”に過ぎない。今の低迷するヤクルトに必要なものは、戦力だけではないはずだ。今季のヤクルトの戦いぶりを振り返ると、チームの精神的支柱が不在だったことが大きく影響していたように感じる。
強いチームには、必ず“顔”ともいえる選手が存在する。野村克也監督のもと、4度のリーグ優勝を果たした1990年代のヤクルトであれば、池山隆寛や古田敦也ら、ヤクルトファンならずとも幾人もの顔を思い浮かべることができるはずだ。ただ、現在のヤクルトにはその顔が見えてこない。昨年限りで引退した宮本慎也に代わるチームリーダーが台頭していないのは、誰の目にも明らかである。
年齢的にはチーム最年長の相川亮二がリーダーだが、生え抜きではない上に、FAでの巨人入りも噂されている。田中浩康は山田哲人の活躍ですっかり存在感を失ってしまった。実績からすれば、畠山和洋か川端慎吾あたりが次期リーダー候補だろうか。ただ、畠山は余計なプレッシャーを排除して自由にプレーさせるべき選手だし、川端はまだ年齢的に若過ぎるという見方もできる。
いずれにせよ、不足している戦力の補強もさることながら、チームリーダーの育成こそが、ヤクルトが急がなければならない本当の課題かもしれない。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)