この5年で急増した変則シフト 現在のMLBはデータ野球の全盛
先日、あるテレビ番組でMLBの試合が話題となった。8月29日に行われたロサンゼルス・ドジャース対サンディエゴ・パドレス戦。2対2で迎えた延長12回裏、パドレスが1アウト満塁のチャンスを迎えた。この場面でドジャースのマッティングリー監督は、外野手のひとりを内野に呼び、一二塁間に野手を4人並べる変則的なシフトを敷く。打席のセス・スミスは左打ちで極端に引っ張る傾向があるための作戦だ。
果たして……打球は一二塁間に飛び、三塁走者が本塁で封殺となり作戦は成功した。通常シフトに戻したあとの打者にヒットを打たれドジャースは敗れたが、この変則的なシフトは話題を呼ぶに十分だった。
巨人の原辰徳監督が今季の阪神戦で敢行した内野5人シフトなど、日本でも年に1、2度は見られる変則シフトだが、近年のMLBでは相手打者の打球傾向に合わせ、野手全体を右や左に寄せるシフトも含めて急増している。
2010年、シーズン通算で変則的なシフトが2464回敷かれ、2011年は2357回、2012年は4577回、昨季は8134回と増え続け、今季は約1万4000回も敷かれた。この5年で約6倍も増えた背景には、アメリカのデータ分析会社が調査資料を商品として、メジャー各球団に対しビジネス展開し始めたことがある。データ分析会社によれば、シフトの対象となる選手はMLB全体で100人以上いると言われていて、各球団がデータを基にシフトを敷く回数が増えたのである。
これだけ回数が増えれば、日本人メジャーリーガーも変則シフトを経験することが多くなる。5月9日のテキサス・レンジャーズ対ボストン・レッドソックス。ダルビッシュ有が完全試合を逃した試合だが、7回にレッドソックスのオルティスが放った打球を右翼手と二塁手が譲り合って出塁を許した。一度は失策が記録され、のちに安打に変更されたあの打球も通常のシフトなら平凡なライトフライである。9回2アウトからオルティスが放った安打も、通常なら二塁手の定位置への打球だった。左打者で引っ張りの傾向が強いオルティスに対し、野手全体を右側に寄せていたことによる結果だ。
記録マニアなどは反対するが…… 変則シフトを禁止にする案も
変則シフトに関し「投手のタイプによって結果は違うし、安打が凡打になるより、普通なら打ち取った打球が抜けるほうがダメージは大きい」といった意見など、賛否はさまざまだ。反対派の意見を受け、今季終了後には極端な守備シフトを禁止にしたらどうかという話もあがった。現行では、投手と捕手以外はフェアゾーンのどこでも守れるルールだが、それを「内野手は一、二塁間と二、三塁間に2人ずつ」といったものに変えようという案だ。
アメリカは日本と比べ記録マニアが多いが、その中には守備シフト禁止案を支持する声も多いという。例えば、打球が一、二塁間に飛んでも、遊撃手が処理すれば記録上は遊ゴロになる。そうなるとスコアを見ただけでは打球傾向などの記録がわかりにくいというわけだ。
変則シフトも戦術のひとつで、そういったシフトをどうかいくぐるかも見どころのひとつだろう。ただ、あまりにもデータに縛られ過ぎてしまうのも少々味気ない気がする。コンピューターを操る側であるはずの人間が、コンピューターに操られてしまうようで恐さすら感じることもあるからだ。この問題に対して、MLB機構はどういった判断を下すのだろうか。
文=京都純典(みやこ・すみのり)