武田翔太「魔球伝説」の陰で見せた虎の光明
9年ぶり6度目の日本シリーズ進出で、1985年以来の日本一を目指した阪神。初戦に勝ったものの、その後4連敗でソフトバンクに優勝をさらわれたことはまだ記憶に新しい。
そんな中、来季への期待を抱かせたのが、第2戦の最後を締めた3年目の右腕・松田遼馬だ。ソフトバンク先発・武田翔太の好投により1点ビハインドで迎えた9回表。3番・内川聖一をセンターフライに打ち取ると、4番・李大浩を自己最速タイ153キロで空振り三振。5番・松田宣浩にはセンター前ヒットを許すが、捕手・梅野隆太郎が盗塁を阻止して3アウト。クリーンアップを無失点に抑えてみせた。
試合後、「最初は緊張したけど、西岡(剛)さんが声をかけてくれてリラックスできた。低めにいい球を投げられてよかったです」とコメント。勝敗もセーブもつかず、その後の登板機会もなかったが、故障で始まったシーズンをいい形で締めくくった。
松田は1994年2月生まれ、長崎県島原市出身。小学2年でソフトボールを始め、4年から投手になったという。島原市立第一中学校では軟式野球部に所属し、県大会3位という記録が残っている。
長崎県の中学軟式出身選手といえば、松田の2学年上の今村猛(現・広島)。小佐々町立(現・佐世保市立)小佐々中学校2年で、「小佐々中クラブ」のメンバーとして全日本少年軟式野球大会出場。県立清峰高校で2009年春のセンバツ優勝。ドラフト1位でプロ入りと輝かしい成績を残している。松田も清峰に憧れた時期があったというが、「自分の力で甲子園に行く」と、仲間と共に同じ県立の波佐見高校へ進学。1年夏からベンチ入りし、2年秋からエースとなった。
松田遼馬の名が全国区となったのが、2011年、松田が3年春のセンバツだ。初戦で近藤健介(現・日本ハム)、乙坂智(現・DeNA)らを擁する横浜高校(神奈川)と対戦。自己最速148キロをマークするなど強気の内角攻めで170球を投げ抜き、8四死球ながら1失点完投勝利。得永健監督は試合後、「ピンチの場面や強い相手ほどアドレナリンが出る選手です」とコメント。松田は「最後まで思い切り投げていいプレーができました。気持ちで投げました」と話した。
故障を乗り越えて「4年目の正直」、虎のストッパーへ!
この年は、九州に逸材投手が多くいた。野球専門誌で大きく取り上げられていたのは松田のほか、武田翔太(宮崎日大高→ソフトバンク)、北方悠誠(佐賀・唐津商業高→DeNA/10月に戦力外通告)、戸田隆矢(鹿児島・樟南高→広島)。松田と北方は、他県ながら車で1時間ほどの距離に学校があり、夏の県大会前に「極秘練習試合」で対決するなど、互いに闘志を燃やす間柄だった。
迎えた夏の県大会初戦は、8球団のスカウトが見守る中、まさかの5失点敗退。そのせいだけではないだろうが、秋のドラフトでは5巡目での指名となった。なお、阪神が最上位で指名した高校生は、聖光学院高校のエース・歳内宏明(2巡目)だった。
プロ1年目は1軍登板なし。当初は先発と考えられていたが、守護神・藤川球児(現・カブス)のメジャー移籍が確定的となったシーズンオフ、松田に白羽の矢が立った。平田勝男2軍監督は「来年(2013年)1年間は下でやって、再来年(2014年)はストッパー争いができるようにしたい」とコメント。松田も「(抑えは)楽しいです。緊迫した場面で投げたい」と受け入れた。
プロ初登板は、平田2軍監督の構想より早い2013年7月13日。そこから17試合、19イニング無失点で抑えてきたが、8月から打ち込まれるようになり、9月には2軍行き。それでもシーズン終了後、小久保裕紀監督率いる日本代表メンバーに選出。台湾打線を相手に151キロをマークするなど、大舞台に強いところを見せた。
3年目の今季は新人王の資格を有し、同じ長崎出身で2学年上の大瀬良大地(広島)とタイトル争いする意気込みで臨んだ。しかし、春季キャンプで右ヒジ痛を発症して、またしてもリハビリからのスタート。秋口からようやく復調し、日本シリーズでの快投へとつなげていった。
そして、今シーズン最後を飾る日米野球で、巨人・阪神連合チームに選出。「真っすぐで勝負すると思います。それで打たれても経験。今の自分の力を出し切って、来季に生かせればいいと思う」と語る一方、「真っすぐだけでは狙い打たれるので、フォークやカーブ、変化球も磨きたい」と、投球術のレベルアップにも意欲を燃やす。11日に行われた試合では、最終回に登板。1死一、二塁の場面を作るも、ストレートとスライダーを組み合わせて2者連続空振り三振。無失点に抑えてみせた。
今季の虎の守護神・呉昇桓は、年明けの1月上旬からグアムで自主トレ開始予定。そこに、松田も同行すると伝えられている。日米野球で学んだことに、韓国を代表するストッパーのエッセンスを加えた松田遼馬。「4年目の正直」が期待できる松田の2015年シーズンが楽しみである。
文=平田美穂(ひらた・みほ)