コラム

7年越しの夢をかなえる時 「巨人先発陣の救世主」高木勇人の球歴とは

「開幕投手か!?」と報じられたルーキー右腕


 ついに開幕した、2015年プロ野球。最近は開幕投手が事前に発表されるようになり、各チームのエースが予定通りマウンドに立った。

 セ・リーグ4連覇をめざす巨人は、2年連続で菅野智之が登板。そんな確固たるエースがいながら「開幕投手か!?」と報じられていたのが、ルーキーの高木勇人だった。

 高木は三重県出身。ルーキーといっても、1989年生まれの25歳。菅野と同い年である。小学校4年生で野球を始め、津市立西橋内中学校では、軟式野球部に所属。目立った記録は残っていないが、1年時には、同じ市内の津市立白山中学校が県大会、東海大会を突破して、全国中学校軟式野球大会(全中)に出場。同じ県内の玉城町立玉城中学校も、同大会に出場して全中準優勝という栄誉。2年時には、四日市市立羽津中学校が全中出場。レベルの高い環境でプレーしていた。

 中学卒業後は、県内の強豪・海星高校へ。2年秋の県大会で優勝するも、東海大会ベスト4で翌春甲子園には出場ならず。3年夏の県大会は準決勝で、中井大介(現・巨人)擁する宇治山田商業高校に敗れた。エースで主軸、プロ注目だった中井は準決勝では登板しなかったが、決勝戦では菰野高校の2年生エース・西勇輝(現・オリックス)と投げ合い、ホームランを放つなど投打に活躍。チームを甲子園に導いた。

 なお、高木と中井は三重県選抜チームで一緒になったこともある仲。中井は高木の巨人入団を喜び、「まさか、同じチームになるとは思いませんでした。お互い頑張っていければと思います」とコメントしている。

 2007年秋の高校生ドラフトは、佐藤由規(仙台育英高→ヤクルト)、中田翔(大阪桐蔭高→日本ハム)、唐川侑己(成田高→ロッテ)が「Big3」と呼ばれていた。そんな中で、三重の怪物・中井は巨人の3巡目指名を受けてプロ入り。高木はプロ志望届けを提出したものの指名されず、三菱重工名古屋に入社した。


7年越しの夢をかなえるための準備は万端!


 入社当時の体重は65キロ。現在は88キロというから、社会人の7年間で20キロ以上増やしたことになる。適切なトレーニングと食事、その工夫の一つが「黒豆王子」と話題になった食材、黒豆だ。

 佐伯功監督(当時は投手コーチ)の「お菓子なんか食べるぐらいなら黒豆を食べろ!」という言葉を忠実に守り、瓶詰めを持ち歩いて食べていたという。アドバイスを受け入れ、大好物にまでなったという、高木の素直さを象徴するエピソードである。

 先発もリリーフもこなし、社会人の甲子園ともいうべき都市対抗野球には、2年目の2009年を皮切りに6回出場(補強選手2回を含む)。日本選手権には1回出場。それなりの戦績を残しながら、プロ入りには至らず。毎年、ドラフト後に聞こえてくるのは「ストレートは魅力だが、制球力に欠ける」という評価だった。

 そして、2014年6月の都市対抗予選。東海地区の最後の出場チームを決める大一番で、先発して4安打完封勝利。本大会ではリリーフで3回3分の1を投げて8奪三振。MAX153キロのストレートに、フォーク、スライダー。安定感抜群のピッチングに、プロのスカウト陣は目を見張った。ようやく訪れた大ブレイクだった。

 10月のドラフト会議では、巨人が3位指名。プロ志望届を提出した高校3年秋から7年の時を経て、ついにプロ入りを果たした。山下哲治スカウト部長は「巨人にいなかったタイプ。力強さでは西村(健太朗)以上かもしれない」とコメント。指名挨拶を受けた高木は、「自分の売りはタフなところです。100試合くらい投げるつもりでいきたいです。気持ちでは負けません」と応じた。
 
 そして、キャンプ、オープン戦をこなすうち、浮上してきたのが先発での起用。150キロ超のストレートに、カーブ、シュート、フォーク、スライダー、そして、カットボール。本人はカットボールというが、キャッチャー目線では「カットボールとスライダーの間に見える」という独特の変化球。原辰徳監督も「シーズンが終わる頃には『タカギボール』と呼ばれるようになるでしょう」と絶賛する魔球である。多彩な球種にスタミナ十分、大舞台での経験豊富となれば、先発で試したくなるのは当然の流れだった。

 3月10日、オープン戦3試合目で初先発。小雪が舞う寒さと強風の中、憧れだったという松坂大輔(ソフトバンク)と投げ合い、5回を7安打2失点。試合後、原監督は「いいコンディションじゃない中で、自分のピッチングができたのは評価できる」と合格点を与えた。投げ終えた高木は「まだまだ、課題はいっぱいあります。コンディションについて、もっと勉強していきたいです」と、先発ローテーション入りに意欲を見せた。

 内海哲也、杉内俊哉ら、主力の調整遅れが懸念される巨人投手陣。しかし、25歳のルーキー・高木勇人がいる。7年という長い間、この日のためにやってきたのだ。3月29日の東京ドーム。開幕3戦目のマウンドを託された高木は、見事に首脳陣の期待に応え、プロ初勝利を挙げた。7年越しで憧れの舞台に辿り着いた男が見せた『プロ』としての第一歩は、これからの活躍を期待させるには、十分なインパクトを残した。

 巨人投手陣の救世主へ。大きな期待を背負う新人右腕のプロ野球人生がようやく幕を開けた。

文=平田美穂(ひらた・みほ)
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