「ハマの大砲」になった“エルチャモ”
もう拍手は鳴らなかった。
先月28日、巨人vsDeNAの開幕第2戦。「5番・ファースト ロペス」というスタメン発表時のコールには、東京ドームのレフトスタンドだけでなく、一塁側からも少なくない拍手が送られた。
「お帰り、エルチャモ(スペイン語でやんちゃ坊主の意味)」そんな雰囲気。それが4打席目にロペスが本塁打を放つと、さすがに巨人ファンは沈黙した。もう元チームメイトではない。これから長いペナントを戦う相手として認識したかのように。
昨オフ、阿部慎之助の一塁転向もあり、巨人からDeNAへ移籍したホセ・ロペス。MLB通算92発、元メジャーのオールスター選手でありながら、巨人時代はチームのために献身的に働く姿が多くのファンに愛された。
13年に日本にやって来ると、安定した一塁守備でゴールデングラブ賞を獲得。打撃でも巨人の外国人選手が来日初年度シーズンに打率3割を超えるのは史上初の快挙。
2年目の昨季は、阿部の一塁起用やセペダの加入で途中出場が増えながらもチーム最多の22本塁打を記録。それでも腐らず、健気にバント練習に励む姿や、人生初の外野練習に挑戦する様子が球場では度々見られた。
ロペスの人柄を表すエピソードとして、巨人時代の元同僚・古城茂幸氏は自著の中でこう書いている。
来日初年度、ロペスが使用していたファーストミットは古城が貸してあげたものだという。「ゴールデングラブを獲ったあとに、『やったね!』と声をかけたら、神妙な顔をして『同じ選手なのに貸してくれてありがとうございます』とすごく律儀だった(笑)。『使いやすくて助かりました。古城さんのおかげで賞が獲れました』そう言ってお礼にネックレスと高級時計をプレゼントしてくれた。今でもそのファーストミットを使ってくれているから嬉しい」(「プロ野球生活16年間で一度もレギュラーになれなかった男がジャイアンツで胴上げしてもらえた話 」より)
もちろん温厚な性格の中に、熱いハートも併せ持つ。13年日本シリーズ第6戦では当時楽天の田中将大からホームランを放った直後、マウンドに向かって咆哮。Kスタ宮城が騒然としたのは記憶に新しい。
ロペスは新天地のDeNAではオープン戦から絶好調。開幕から不動の「5番・ファースト」として定着すると、打率.361、6本塁打、13打点。本塁打と打点でリーグ二冠王の大活躍を見せている。
31歳のロペスには、元メジャーリーガーや元巨人の一塁手なんて肩書きはもういらない。いまやエルチャモは、立派な頼れる「ハマの大砲」なのである。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)