幾度となく“崖っぷち”から這い上がった男
『未完の大器』――。どこのチームにも、そう呼ばれる男がいる。
毎年チャンスを与えられながらもなかなか結果が残せない。それでも、首脳陣はそのポテンシャルを認め今年こそはと期待する。まさにロッテの清田育宏もそういう選手だった。
2012年の87試合出場と打率.281が自身のキャリアハイ。昨季はプロ入り以来最少の24試合出場、打率は.170という成績に終わった。
それでも昨季放った8安打中、実に7本が長打。内4本が本塁打とそのパワーはチーム屈指。イースタンでは75試合で打率.347、12本塁打、59打点と格の違いを見せつけた。
そして、迎えた6年目のシーズン。地元・千葉出身の期待の若手も気が付けば29歳になっていた。選手会公式ホームページによると、プロ野球選手の平均選手寿命は約9年、平均引退年齢は約29歳。清田もいわば崖っぷちである。
今シーズンも序盤はスタメンを外れることも多かったが、5月に入ると1番打者として定着。現在5月9日の西武戦から17試合連続安打を継続中で、その間74打数35安打の固め打ち。
28日の広島戦で規定打席に到達すると、打率.363でパリーグ打撃成績の首位を快走。すでに自己最多の7本塁打を放ち、トップバッターとしてチームを牽引している。
思えば、清田はこれまでも何度も崖っぷちから這い上がって来た。
東洋大学3年の秋に自身の投手としての能力に限界を感じ野手転向を決意。翌年の東都大学春季リーグで外野手としていきなりベストナインに選出され、野球選手・清田はギリギリで踏み止まり生き残った。
社会人・NTT東日本時代は日本代表の一員として活躍。ドラフト前は長野久義(当時ホンダ)と並ぶ社会人屈指の外野手として1位候補という報道もあったが、蓋を開けてみたら予想外の低評価でロッテ4位指名。それでも1年目の2010年は、日本シリーズで優秀選手賞を獲得する意地を見せた。
しかし、その後は背番号「1」を背負いながら、一軍にも定着しきれない日々。ここ数シーズンは出場試合数も減少し、野球人生何度か目の崖っぷちに立たされながらも、またしぶとく這い上がった。
男、29歳。掴めそうで掴めなかった不動のレギュラーの座を手に入れた清田育宏は、前年度打率1割台からの「下克上首位打者」に挑戦しようとしている。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)