コラム 2015.06.17. 18:45

最強打者・落合博満が貫いた「オレ流」 -元・名物番記者が語るプロ野球ちょっと裏話-

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現在は中日のGMとして「オレ流」ぶりを発揮している落合博満氏 © KYODO NEWS IMAGES 

「オレ流」貫いた稀代の大打者


 最強の打者を語る時、大きな物差しがある。打率、本塁打、打点の3部門を制する三冠王だ。

 首位打者には確実に安打を量産する技術、打点王にはここ一番の勝負強さが求められる。そして本塁打王は誰よりも遠くへ飛ばすパワー…。

 かつて世界の本塁打王・王貞治は「ホームランの瞬間は、すべての動きが止まり、自分だけが支配できる空間なんだ」と語ったことがある。

 その世界の王を越える三度の三冠王を獲得したのが、元ロッテの落合博満。“ON”やイチローに比べて話題性や人気面では劣るが間違いなく球史に残る最強打者である。

 落合と巡り合ったのは1978年のこと。駆け出しのロッテ担当と社会人野球・東芝府中の主軸打者という関係性だった。

 当時の落合は全日本のクリーンアップを任されていたものの、プロの評価は意外に低くドラフトは3位での指名。入団交渉の席に他社は駆けつけず、取材したのは私一人だった。

 後には不世出の大打者も、当時それほど評価が高くなかった裏にはいくつかの事情があった。

 ひとつは、落合の歩んできた道がある。高校は秋田工高を中途で退部、東洋大に進んだ後も一時は野球から離れてプロボウラーを目指した変わり種。

 さらに社会人でも東芝は都市対抗の常連である川崎に多くの有望選手が集まり、府中は二軍的存在だったのだ。常に「裏街道」を歩んできた男にはその頃、不人気で観客が数百人というのも珍しくない川崎球場でのデビューがお似合いだったのかも知れない。

 もうひとつの問題は打撃術だった。うまさとそこそこのパワーを併せ持っていたものの、内角球に弱点を抱えていたのだ。しかし、これらの問題を解消するのにさしたる時間はかからなかった。

 もし、落合に人気もあり、選手層の厚い巨人に入団していたら、後の三冠王は誕生しただろうか?恐らく答えは「ノー」である。

 時に頑固なほどの「オレ流」を貫き通せたのはロッテの環境が許したもの。さらに苦手克服には名伯楽との出会いがあった。山内一弘監督――。打撃コーチとしての評価が高く、現役時代は内角打ちの名人と称された男だ。

 その山内が落合に施した荒療治は、練習の際に打撃マシンの正面に立たせてカーブを打たせるもの。体に直撃かというボールを払うように打つことで内角打ちの極意を体得させていった。

 後年の落合には独特の練習法もあった。打撃投手に山なりの遅球を投げてもらい、これをスタンドまで運ぶ。速球よりもこうすることで手元までボールを呼び込み体の軸回転で飛距離を伸ばす感覚を磨いて行ったのだ。

 中日の監督として実績を残し、現在は同球団のゼネラルマネージャー。ここでも他球団の動きとは一線を画した補強路線を敷き、現役を退いた後も「オレ流」を貫いている落合博満。

 孤高の大打者の戦いは舞台を替えてまだまだ続く。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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