プロのキャリアでイチローが唯一退場した試合
2009年9月26日。シアトル・マリナーズとトロント・ブルージェイズの試合で珍しいことがあった。マリナーズの選手としてスタメン出場したイチローは、5回に巡ってきた3打席目で見逃し三振を喫する。
相手投手のデビット・パーシーがカウント2ストライクから投じた外角いっぱいの速球をストライクと判定されたことに対し、イチローは不満の表情を浮かべながら「投球はここを通ったのだからボールだろ」と言いたげにホームベースの外側をバットでなぞった。球審はその行動を侮辱行為とし、イチローに退場を命じた。イチローにとって日米通じて初めてで、現在まででも唯一の退場処分である。
このシーン、ふだんは誰よりも冷静にプレーするイチローが感情を露わにし、退場処分を受けたことで覚えている人も多いのではないだろうか。
問題の投球は、センター側からの映像ではストライクのように見えるが、ホームプレート情報からの映像ではボール1個分外れているように見えた。さらに驚くべきことは、イチローがなぞった場所とボールの通った場所がピタリと一致していたのである。
審判の判定は絶対とはいえ、イチローの選球眼のよさを見せつけた出来事だった。
独立リーグで行われたコンピューターによるストライク判定
昨季からメジャーリーグでは、1試合2度までを上限としてビデオ判定を要求できるチャレンジシステムを採用している。そのシステムもすっかり浸透した感もあるが、アメリカの独立リーグではストライクかボールの判定をコンピューターで行うという話も出てきている。
独立リーグのサンラファエル・パシフィックスの本拠地で行われた7月28日、29日の試合でコンピューターによるストライク判定を行ったのだ。球審を置かずに試合が進行されたのがもちろん初めてのことだった。
判定で使われたのは「PITCHf/x」という計測器システム。球速やボールの軌道を追跡するもので、メジャーリーグの全30球団の本拠地にも設置されている。また、今季から日本の楽天も投手分析のひとつとして似たようなシステムを導入した。
パシフィックスの試合でシステムを管理したのは、外野手としてオークランド・アスレチックスなどで活躍し、現在は解説者のエリック・バーンズ氏。同氏はチャリティー活動にも熱心で、四球と三振が記録されるたびに100ドル、システムによる判定に抗議してきた選手や監督を退場処分にした場合は1万ドルを慈善団体に寄付することも明らかになった。
今回は、あくまでも独立リーグの試験運用に過ぎないが、近年のメジャーリーグでは投球や打球をコンピューターで計測するトラッキングシステムが急速に進化している。この状況を見る限り、5年後、10年後に、野球におけるすべての判定がコンピューターで行われるようになっていても不思議ではない。
ただ、コンピューターを使ったからといって、選手が人間である以上、判定に対する不満がなくなるとも思えないのだが。
文=京都純典(みやこ・すみのり)