コラム

史上最大の下剋上 日本シリーズベスト選(5)-元・名物番記者が語るプロ野球ちょっと裏話-

 日本シリーズの歴史において大きな変革と言えば2007年から導入されたクライマックスシリーズ(以下CS)だ。リーグ優勝チーム同士が激突する従来の方式に対して、まず3位と2位が戦い、勝ち残ったチームが1位と最終決着をつける。この勝者が初めてシリーズに駒を進められる。これでは長丁場のシーズンを勝った1位チームの優位性がないということで、翌08年からは1位チームに1勝の事前アドバンテージが加えられることになった。

 この方式、元を辿ればペナントレースの決着後にシリーズまで間隔が空いてしまうケースが多く、この間に興業を打てば盛り上がり、営業的にも球団の収益増につながる。メジャーリーグなどではすでに実施済みであり、ペナントを逃したチームには再チャレンジの場が与えられることで今では違和感なくファンにも受け入れられている。

 さて、CSの特典を最大限に生かし、死の淵から天国にまで駆け上がったのが2010年の千葉ロッテである。何せシーズンはソフトバンク、西武に次ぐ3位。それが目前の敵を撃破して日本シリーズに出場するとセの覇者・中日まで倒して頂点獲り。「史上最大の下剋上」として記録にも記憶にも残ることとなった。

 シリーズの前にCSの奇跡にもう少し迫る。最初の対決となった西武戦から神がかっている。第1戦が6対5、第2戦が5対4の僅小差をともに延長11回で制したものだが、特に初戦は9回に4点差を追いついて最後は福浦の劇的アーチで勝利をつかんだもの。これでチームに勢いがつかないわけがない。さらに第2ステージのソフトバンク戦もアドバンテージも含めて1勝3敗の徳俵に追い込まれてからの逆転である。CSの醍醐味と面白さを改めて感じさせる一方で敗軍の将であるソフトバンク・王監督が悔しさをにじませながら「ルールはルールだから」と語った姿も印象深い。

 さてシリーズはかつてロッテの主砲として鳴らした落合博満率いる中日が相手。勝敗を分けたポイントには第6戦をあげたい。3勝2敗で王手をかけたロッテは1点リードを許した8回にサブロ―の適時打で追いつくと延長戦に突入。中日が毎回得点圏に走者を進めながら決定打を奪えないまま15回で引き分けた。試合時間5時間43分、両軍44選手出場はいずれもシリーズ新記録だった。特に痛かったのは中日で、勝負を決めに行った8回から逃げ込みを図り浅尾を引っ張り続けたため翌日の試合にしわ寄せがきた。

 仕切り直しの第7戦もクロスゲームになる。2点の先制を許した中日が序盤に6点をあげて主導権を握ったかに見えたがロッテも中盤の反撃で同点。終盤再びロッテがリードも9回に中日は和田の三塁打をブランコの犠飛で、また延長戦にもつれこむ。両軍死力を尽くした攻防は12回、ロッテが岡田の決勝三塁打で下剋上の最終章を完成させた。MVPは勝負強い打撃が光った今江。2005年の阪神とのシリーズに次ぐ2度目の受賞となった。ちなみにこの年もシーズン2位からの下剋上で日本一になっている。今年もまたレギュラーシーズン3位から日本ハムを撃破して、3度目の下剋上を狙ったがソフトバンクの前に完敗して野望はついえた。

 大一番の前には事前の戦力分析や万全の投手ローテーションなどの重要性が指摘されるが、そんな余裕のないまま勢いで突っ走るのも短期決戦の必勝法なのかも知れない。

<第7戦のスコア>
ロ|200 130 100 001|8
中|312 000 001 000|7
勝:伊藤
敗:浅尾

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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