今なお語り継がれるスーパースターの伝説
2015年のプロ野球が終わった。日本シリーズはソフトバンクがヤクルト相手に圧倒的な強さを見せつけ、4勝1敗で90年から92年の西武ライオンズ以来となる連覇を達成。球界は名実ともにソフトバンク黄金時代が幕を開けたように思える。
強打の両チームが対峙した今シリーズ、第3戦ではヤクルト・山田哲人が3打席連続ホームラン。日本シリーズでの3打席連発は、巨人V9真っ只中の70年、第3戦の最終打席から第4戦の第2打席にかけて2試合またぎで記録した長嶋茂雄以来2人目の快挙だ。
一方、続く第4戦では負けじとソフトバンクの主砲・李大浩が3安打4打点の活躍。4番打者の猛打賞&4打点というのは、これまた66年の第1戦で長嶋茂雄が4安打4打点をマークして以来で2人目となった。
つまり、現代の強打者たちが打ち立てたあらゆる記録が「長嶋茂雄以来」なのである。
ミスターが現役引退してから40年以上が経過したにもかかわらず、時間を超越して2015年の野球ファンの前に姿を現す伝説の数々。世界のホームランキング・王貞治と比較され「記録より記憶に残る選手」と形容されることの多い背番号3だが、その圧倒的な大舞台での強さは立派な記録として今も球界に燦然と残る。
日本シリーズ通算68試合出場、265打数91安打で打率.343、25本塁打、66打点。シリーズMVP4度はもちろん史上最多。通算91安打は2位以下を20安打以上引き離してぶっちぎりのトップ。通算打点も盟友・王を抑えて歴代1位だ。
シリーズには12度出場し、そのうち初戦では通算4本塁打を放っているが、長嶋はレギュラーシーズン開幕試合でも無類の勝負強さを発揮し、キャリア通算10回の開幕戦本塁打を記録。これはNPBのみならず、全世界で見ても最多の記録である。
山田哲人と柳田悠岐のトリプリスリー対決が話題となった2015年の日本シリーズであるが、58年にデビューを果たした当時22歳の長嶋も、かの有名な“一塁踏み忘れ本塁打”さえなればトリプルスリーを達成していた天才打者だ。
首位打者はセ・リーグ最多の6度獲得。さらに現在のようにタイトル表彰こそなかったものの、10度のリーグ最多安打も史上最多。かと思えば、意外にも通算257併殺打は歴代4位タイ。ミスターの魅力はその「完璧すぎないプレイスタイル」だったように思う。
いつの時代もスキのない完全無欠なエンターテインメントはマンネリに陥りやすい。何が起きるか分からない。時にミスを笑い、ここぞの場面ではチームを救う気まぐれなヒーローに昭和の人々は熱狂したのだ。
あの頃、日本シリーズと言えば背番号3の季節。時代が昭和から平成に代わっても、今もこうして語り継がれるスーパースター。まさに記録にも記憶にも強烈に残る「燃える男」だった。
いつの日か、我々は球場で長嶋茂雄のような選手をまた見ることができるのだろうか?
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)