コラム 2016.02.20. 21:00

変わりつつある「亡命」の重み…故郷から脱出してまで挑戦したい世界最高峰の舞台

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去就に注目が集まるグリエル

衝撃を与えたグリエルの亡命…


 かつて日本のDeNAベイスターズでプレーをした“キューバの至宝”ことユリエスキ・グリエルが、メジャーリーグ入りを目指すため、遠征先のメキシコで亡命をした。

 キューバは長らく断絶していたアメリカとの国交が回復し、モノやヒトが開放路線に向かっている最中。近い将来、亡命せずに正規のルートでMLBでのプレーが可能になるのではないかと囁かれていた。そんな中でのグリエルの亡命は、衝撃とともに大きなショックを覚える出来事となった。

 「亡命」――。

 我々日本人にとってなじみのないものではあるが、響きは大変なじみのあるものになった。

 多くの日本人が初めて「亡命」という言葉に触れるのは、隣国・北朝鮮におけるその実態を伝える番組などではないだろうか。

 国内の政治的な理由等で生活が困窮し、国境越えを目指すというのが主。成功すれば第三国で生活できる可能性が高くなり、失敗すれば国に引き戻される。国によっては、まさに「命がけ」だ。

 亡命した人間は、された側の国では「裏切り者」として扱われるケースもあり、大きな罰則を受けるケースも少なくない。

 しかし、キューバは国も人もやや寛容な印象を受ける。昨年はアメリカとの国交回復の記念として、かつてキューバから亡命したヤシエル・プイグや、ホセ・アブレイユなど、多くの“元”キューバ人選手が、政府から招待を受け、MLB関係者と共に再び国境を跨いでいるのだ。

 驚くべきことに、その時に選手たちは多くのキューバ政府関係者から笑顔で歓迎を受けた。滞在中は家族と再開したり、浜辺でキャッチボールをする映像が、MLBから発信されている。我々日本人が想像する「亡命者の扱い」からは大きくかけ離れていた。

 今回の「グリエル亡命」は、このような両国のムードの中で起きた事件とあって衝撃が大きかった。

 しかし、グリエルも野球人としてギリギリの年齢であり、ギリギリの選択を迫られていたのではないかということも推察できる。

 キューバは社会主義国で、国を挙げた一貫育成システムによって選手が育つ。先日の“凱旋帰国”の模様を目にすると、国は育て上げた選手の能力に誰よりも気がついているからこそ、すぐ真上にある国の、紛れもない世界最高峰リーグに挑戦したくなる選手の思いに、一抹の「理解」もあるのではないかと想像してしまう。

 キューバという国は「MLBに挑戦したくなる国」ではあるが、決して「逃げ出したい」国ではないのだ。
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