本塁打が打てなくても、守りでファンを魅了
プロ野球の最大の魅力は大きな放物線を描くホームランと言っても過言ではない。昨年の日本シリーズではヤクルト・山田哲人の3打席連続ホームランにファンは酔いしれ、ソフトバンク・柳田悠岐のバットが背中に当たらんばかりのフルスイングとその打球の飛距離は胸をワクワクさせる。
パ・リーグ2年連続ホームラン王となった西武・中村剛也のホームランにはパワーだけではない、柔らかさでボールをスタンドへ運ぶホームランの「技術」を感じさせる。
その一方でプロ入り以降、2087打席立って未だ本塁打ゼロという選手もいる。その選手の名はロッテ・岡田幸文。08年に育成ドラフトでプロ入りし、翌09年の開幕前には支配下選手に登録される。初めて一軍の打席に立ったプロ2年目の10年6月2日の巨人戦以降、昨年まで通算2087打席に立ってきたが、今まで本塁打を放ったことはない。
14年7月31日には東京セネタース(現日本ハム)の横沢七郎が持っていた入団以来1770打席連続無本塁打という記録を塗り替え日本記録を更新。なおも記録は続いている。しかし、その間には「あわやホームラン」という惜しい打球もあった。14年9月24日、QVCマリンでの日本ハム戦の1回裏、1番打者として打席に立った岡田はカウント0-1から内角寄りの直球を振り抜く。打球はグングン伸びてそのままライトスタンドの方へ。一塁ベンチの選手たち、ロッテファンが「ついに!?」とその打球の行方を見守るも、ボールはフェンス上部のネットを直撃。惜しくも二塁打となった。
単純にその記録だけを見ると「プロ野球選手なのにホームランがないなんて…」とネガティブなニュアンスにとらえられるかもしれない。しかし、この記録は裏を返せば岡田幸文という選手の凄さを物語るものと言っても良い。
岡田の最大の魅力はその俊足と「エリア66」と呼ばれる外野守備だ。144試合フル出場を果たした11年には本多雄一(ソフトバンク)、聖沢諒(楽天)に次ぐリーグ3位の41盗塁をマーク。守っては広瀬叔功(当時南海)の持つリーグ記録にあと2と迫るシーズン351刺殺を記録し初のゴールデングラブ賞を受賞。翌年も連続受賞を果たしている。その外野守備は今も健在であり、QVCマリンには「岡田の守備が見たい」と背番号66のユニホームを身にまとい応援するロッテファンも多い。
たとえホームランが出なくても、それを凌駕するほどの外野守備で岡田幸文はファンに夢を与えている。岡田の他にも清田育宏、角中勝也、荻野貴司、伊志嶺翔大、加藤翔平と毎年激しい外野の定位置争いが繰り広げられるロッテ外野陣。その中でも岡田の存在感はとても貴重だ。