平成版“代打の神様”が見せる生き様
「矢野~謙次~、気合の戦士~」。このフレーズを聴くと思わず口ずさんでしまう方も多いのではなかろうか?
日本ハム・矢野謙次。その勝負強さは現在の球界屈指の存在で、平成の“代打の神様”といえばこの人、矢野だろう。
代打の神様といえば、元阪神の八木裕が有名。1997年には代打で打率4割越えするなど、めっぽう勝負強かった。甲子園球場では「代打・八木」がコールされると、地響きのような歓声が起こったのも懐かしい。
昭和の神様が八木なら、平成は矢野だ。巨人在籍時の2007年から代打の切り札として起用され、いきなりその年に球団史上5人目となる代打逆転満塁本塁打を放つ。
代打初年度の成績は打率.256、本塁打4に終わるも、代打として覚醒した2010年には42試合に出場し、打率.311(74-23)と代打で主軸並みの数字を記録。代打成功率はなんと5割を超えていた。2013年には、シーズン代打安打19(53打数)の球団新記録を樹立し、当時の原監督から「神様」の称号も授かっている。
ところが、2014、2015年と不振が続き、2015年のシーズン途中に日本ハムへ電撃トレードされた。
当時の巨人ファンには「矢野信者」が多く、突然の別れに涙するファンもいたほどだった。確かに2014年は打率.179(78-14)と数字的には振るわなかったが、気持ちは衰えてはいなかった。
6月10日に移籍した矢野は、札幌ドームで“復活”する。移籍からわずか2日後の12日・DeNA戦。代打ではなかったものの、「6番・指名打者」で先発出場すると、いきなり6打数3安打の大暴れ。お立ち台での「ファイターズ最高!」は有名なフレーズになった。
そして、日ハムファンはもちろん、巨人の「信者」たちも鳥肌が立ったのが、翌6月14日の一撃だ。1点を追う7回に、DeNA・平田のスライダーをフルスイング。自身2年ぶりとなる一発は、値千金の逆転3ランとなった。連夜のお立ち台となった矢野は、「マジ気合で打ちました」と興奮気味に話し、連夜の「ファイターズ最高!!」に沸いた。
巨人時代、試合中に幾度となくベンチ裏の「素振り部屋」でバットを振った。試合展開に関係なくバットを振る矢野の姿に、当時のナインは奮起したという。
代打――。野球において最も重要で、かつ最も難しいポジションかもしれない。
振ったバットの回数は嘘をつかない。今シーズン、矢野のお立ち台を何度見られるのだろうか。