OBの予想を上回る活躍で先頭打者に定着
「田中(広輔)が1番打者で使えるようになれば、得点力は相当アップする」――。
今年3月のオープン戦期間中に、広島OBである達川光男氏が語っていた言葉である。
その根拠はというと、「選球眼も良く、ファウルで逃げる技術も長打もある。7番に置いておくのはもったいない」というもの。ただし、これは「去年はまだ信頼していなかった首脳陣も、“辛抱して”1番で使ってほしい」という、首脳陣への要望も含んだものであった。
そして迎えた今季。田中はここまで全41試合に1番打者としてスタメン起用。打率.310(リーグ10位)、出塁率.398(リーグ6位)、7盗塁(リーグ2位タイ)と、トップバッターとして申し分ない数字を残している。
達川氏が評価していた「選球眼」にも磨きがかかり、ここまでに選んだ17四球はすでに昨シーズン141試合で記録した34四球の半分に到達。首脳陣に“辛抱”させるどころか、不動の先頭打者として信頼を完全に勝ち得ている。
初回一気の攻撃でゲームを支配
達川氏の発言どおり、田中が1番に定着したことで、広島の得点力は図抜けたものとなった。
ここまでの211得点は、2位・ロッテの190得点をはるかに上回る12球団断トツの数字だ。その好調な打線のなかにあっても、田中の貢献度は非常に高い。というのも、田中の“ある成績”が抜きん出ているからだ。
打率.486/出塁率.561――。これは、田中の「初回・第1打席」に限った数字だ。
尋常ならぬ好成績であることは一目瞭然だろう。そして、田中の後ろには、菊池涼介、新井貴浩、エルドレッドら3割打者が居並ぶ。ひとたび出塁すれば、彼らのバットによって田中は高確率でホームベースを踏むことになる。
事実、田中の37得点は12球団トップの数字。それも、初回に記録した23出塁のうち半分以上に当たる12度の生還を果たしている。そして、自身の得点のうち、およそ3分の1が初回に記録したもの。田中の貢献もあり、チームが初回に記録した27得点もまた12球団トップである。
首脳陣が考え抜いた打順ではじまる初回に攻め込むのは野球の鉄則であり、相手投手も立ち上がりということもあって初回の得失点は他イニングより多い。これが野球の必然である。
とはいえ、異常なほどに高い出塁率を誇る田中の場合、ただチームに得点をもたらすにとどまらず、ゲーム全体にも大きな影響を及ぼす。
粘られた上に、出塁を許せば足も警戒しなくてはならない。さらに2番打者は小技の利く菊池だ。そしてクリーンアップは打点王争い上位に名を連ねるメンバー。相手投手からすればこれほど嫌な打線もない。仮に失点しなかったとしても、初回から与えられたプレッシャーをずっと引きることになる。
田中が牽引する“電光石火の攻撃”が、今季こそ、広島をリーグVへと導く。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)