タイトルを争うような選手がシーズン中に移籍!?
169キロ左腕アロルディス・チャプマンがヤンキースからカブスへ移籍...。今年もメジャーリーグのトレード市場は活発だ。
トレード期限を迎える8月1日までに、ほとんどのチームが今季のポストシーズンを狙う“買い手”と来季以降を見据える“売り手”のどちらかに回る。
前半戦でどれだけの成績を残していても、ファンから愛されている人気者であろうとも移籍の可能性がある。その点、アメリカは日本と違ってとてもドライだ。
そんななか、現在地区優勝争いの真っただ中にいるレッドソックスやレンジャーズから熱い視線を送られている投手がいる。最近何かと話題の、クリス・セール(ホワイトソックス)だ。
なにかと“お騒がせ”の左腕に熱視線...
セールは先発予定だった23日の試合前、その試合で着用予定だった復刻ユニフォームの着用を拒否。さらに練習中にその復刻ユニホームを切り刻んだとして、チームから5試合の出場停止と罰金処分を科された。この事件は“奇行”として日本でも取り上げられて話題になっている。
しかし、本業の方はというと、その実力は折り紙付き。オールスターゲームではア・リーグの先発投手として登板するなど、ここまでリーグトップタイの14勝をマーク。最多勝も争っている。
獲得が噂されるレッドソックスやレンジャーズは同じア・リーグ所属のため、仮に移籍しても今季積み上げてきた成績は(個人タイトル争いという点で)生かされる。だが、もしナ・リーグ球団への移籍となると話は別。最多勝やサイヤング賞といった個人タイトルはリーグごとに表彰されるため、ナ・リーグでは“ゼロ”からのスタートとなってしまうのだ。
当然、移籍すればポストシーズンを狙える環境に一変するため、不満を漏らすことはいないだろう。しかし、選手にとっては個人タイトルも重要であることに変わりはない。
セールは昨シーズン奪三振王に輝いているものの、最多勝やサイヤング賞は獲得したことがない。心の底では「ナ・リーグは勘弁...」と思っていてもおかしくないだろう。
移籍でタイトルを逃した選手といえば...
過去にはこういった例でタイトルを逃した選手もいる。1997年のマーク・マグワイア(現パドレスコーチ)がその一人だ。
マグワイアは、トレード期限ギリギリの7月31日にアスレチックスからカージナルスへと移籍。その時点で34本塁打を放っていたが、リーグをまたぐ移籍だったため、一転して“ゼロ”からの出発となった。
移籍後、カージナルスでも51試合で24発というすさまじいペースで本塁打を量産したが、ア・リーグはケン・グリフィー・Jr(56本)が、ナ・リーグはラリー・ウォーカー(49本)がそれぞれリーグ本塁打王に輝いた。
マグワイアがその年リーグをまたいで放った本塁打は58本…。そう、マグワイアはその年メジャーで最も多くの本塁打を放ちながら、本塁打王のタイトルを獲ることができなかったのだ。
このように、タイトルを争う選手個人にとってはネガティブな要素も含むシーズン中の移籍。果たして、セールの立場ならどう考えるだろうか……。
時には選手目線で見てみるのも興味深い。
文=八木遊(やぎ・ゆう)