シーズンが進むにつれて評価はうなぎ上り
8月4日、楽天に頼もしい男が帰ってきた。ドラフト3位ルーキー・茂木栄五郎だ。
6月26日のソフトバンク戦で二塁ベースカバーに入った際、逸れた送球を捕ろうと体勢を崩し、一塁走者・本多雄一のスパイクを右手に受けてしまった。骨や腱を痛めたわけではなかったのは不幸中の幸いだが、3カ所、計17針も縫う大ケガだった。以来、38日ぶりの一軍の試合。この日のオリックス戦、7番・遊撃でスタメンフル出場を果たした。
楽天のルーキーのなかで、今季開幕前から注目を集めていたのは、なんといってもドラフト1位のオコエ瑠偉である。だが、キャンプ、オープン戦、そしてシーズンを通して、茂木の評価はどんどん上がっていった。
茂木は東京都小金井市出身。小学1年で野球をはじめ、桐蔭学園高に進学すると、名門のなかで1年秋から4番・サードのレギュラーを奪取。3年夏の神奈川県大会では、準決勝で松井裕樹(現楽天)擁する桐光学園高に惜敗し甲子園出場はならなかったものの、自身は打率.423、2本塁打、5打点の好成績を残した。
早稲田大進学後も1年春からレギュラーとして東京六大学野球リーグに出場。3年秋には打率.514で首位打者を獲得し、4年春の全日本大学野球選手権大会では打率.615でチームの優勝に大きく貢献。首位打者、そして文句なしのMVPを獲得している。
チームの苦境で力を発揮する“諦めない心”
身長171cmと小柄だが、巧みなバットコントロールに加えてパンチのある打撃は、今季のルーキーのなかでも傑出している。今季開幕後、主に6番打者を務めていた茂木だが、離脱前にはクリーンアップの一角を担うほど、首脳陣の信頼を獲得。現在の個人成績は、78試合に出場して、打率.279、1本塁打、27打点。プロ1年目ということを勘案すれば、十分過ぎる数字である。
さらに、多少の粗さはあるものの、経験のなかった遊撃を無難にこなす守備センスも備え、これまで9盗塁をマーク。憧れの選手がチームの先輩・松井稼頭央というのも納得の高い総合力を見せつけ、いまやチームになくてはならない存在だ。
さらに心強いのは.300と高い得点圏打率。離脱の影響で残念ながら規定打席には到達していないが、これはリーグ8位に相当する数字だ。とにかくアピールしなければならない1年目ということもあるが、この数字は、1打席1打席に集中し、たとえ劣勢であっても決してゲームを捨てない姿勢の表れに他ならない。そういった姿勢は、戦う集団のなかでチームメートを鼓舞することにもなる。
一軍復帰戦となったオリックスとの試合では、相手エース・金子千尋の前に無安打に終わったが、4回には安達了一の遊ゴロをジャンピングスローでさばくなど軽快な守備を披露し、ファンを一安心させた。
現在、チームは4位。3位ロッテとは13ゲーム差の開きがあり、CS進出は難しいものとなっているが、茂木の復帰はこの上ない朗報だ。体力的にも精神的にも厳しさを増す終盤戦で、決して諦めない男・茂木がなにをつかむのか。その経験は必ず来季にも生きてくる。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)