白球つれづれ~第24回・広島東洋カープ~
お見事、赤ヘル!広島東洋カープが25年ぶり7度目のリーグ優勝を達成した。エースの黒田博樹と出戻り主砲の新井貴浩の号泣抱擁も感動したが、地元広島市民の歓喜と涙が何より四半世紀の時の重みを感じさせてくれた。
オーナーであり球団の筆頭株主でもある松田元は「カープは公共財」という。そう、12球団の中で唯一の市民球団だからこそファンの愛情と思い入れは他と一線を画しているのだろう。だが、一方で親会社の潤沢な資金に期待できない市民球団ゆえの苦労がこの球団には付きまとってきた。そんな苦境を跳ね返せたのは「貧者の知恵」ともいうべき努力があったことを忘れてはならない。
先発野手の平均年俸は3倍以上の差?!
<広島>
田中(3)4100万円
菊池(2)8500万円
丸 (3)8500万円
新井(6)6000万円
鈴木(2)1700万円
松山(4)2800万円
安部(1)1080万円
石原(4)1億円
黒田(2)6億円
合計 10億2680万円
<巨人>
長野(1) 1億7500万円
亀井(4) 7000万円
坂本(1) 2億5000万円
阿部(1) 3億2600万円
村田(2) 3億円
ギャレット 3億500万円
辻 (3) 710万円
小林(1) 2600万円
マイコラス 2億4000万円
合計 16億9910万円
(※年俸額はスポニチ選手名鑑参照)
この数字からは二つの大きな違いがわかるはずだ。ひとつは巨人のオーダーにドラフト1位が4人いるのに対して広島は9年目の安部ただ一人で他は2位から6位までと幅広い。二つ目は総年俸の開きだ。先発メンバーだけで実に7億円近いが、これを先発野手に限定すると8選手平均で巨人が1億8239万円に対して広島は5335万円。いかにカープが低予算で効率よく勝利を手にしたかがわかる。
広島を襲う逆風
戦後復興のシンボルとして1950年に球団を創設した(リーグ登録は49年)が初年度から財政難は常にのしかかってきた。巨人や阪神のように親会社によるバックアップも期待できなければ球場の収容人員も少なく「貧乏球団」の代名詞のように言われてきた。それでも75年の初優勝から90年代初頭までは強豪の仲間入りを果たすが再び逆風が広島を襲う。FA制度と逆指名だ。
主力の年俸ははね上がり、新人の獲得にも巨額の資金が必要となる。広島だけをとっても川口和久、江藤智、金本知憲、新井貴浩らがFAで他球団に流失。黒田博樹や前田健太らがメジャーの門を叩いていった。
だが、広島にはこうした逆風をはね返す創意と工夫がある。
「野球界のルールが変わっても道はある。ウチのスカウトは素質のある選手を見つけてくれる」(松田元オーナー)
広島の慧眼と土壌
球界でも名スカウトとして名高い現スカウト統括部長の苑田聡彦は現在71歳。彼もまた万感の思いで25年ぶりのⅤを見つめた。ドラフト候補を注視する最大のポイントは投手ならピンチで打たれた時、打者ならチャンスで打てない時の態度。さらにはユニホームの着こなしから走り方やスウィングの格好良さを見るという。
黒田が専修大時代の20年前のこと、当時東都リーグの2部にいた黒田の注目度は高くなかったが誰よりも足繁く通った。ある時、痛打された黒田はその打者に次も同じ球種、同じコースで勝負したという。この鼻っ柱の強さに惚れこんだ。
広島では年に6回程度スカウト会議が開かれオーナーも出席する。ここで毎年の補強ポイントを明確化して、各スカウトはポジション別年齢構成表を共有する。こうした明確な指針の下で丸佳浩や鈴木誠也らを指名していく。いずれも高校時代は投手経験者。野手に転向した時の伸びしろを見ているから1位指名でなくても獲得できる。さらにカープ伝統の野球漬けの日々と若手を積極的に起用する土壌があって花開くわけだ。
記の表以外でも往年の達川光男も前田智徳も金本知憲もドラフト4位組なら今季の守護神・中崎翔太は10年のドラフト6位。低コストのハイリターン。赤ヘル軍団には学ぶべき貧者の知恵がある。
文=荒川和夫(あらかわかずお)