白球つれづれ~第28回・清宮幸太郎~
主将としての重圧もあっただろう。周囲の期待に応えたいという焦りもあったのだろう。そして高校通算本塁打を伸ばしていく欲もあったはずだ。
早実(正式名は早稲田実業学校高等部)の怪物君・清宮幸太郎がちょっぴりほろ苦くも歓喜の中で自身2年ぶりの甲子園行きを決めた。
11月3日に行われた高校野球秋季東京大会の決勝。強豪・日大三高と激突した早実は大接戦の末、1年生四番・野村大樹のサヨナラ2ランで逆転勝利。東京の頂点に立つとともに来春の選抜高校野球大会の出場を確実なものにした。
あれから1年…怪物の今は?!
清宮が甲子園で輝いてから早いもので1年以上がたつ。聖地では名門の1年生主砲として2発のアーチをかけて周囲の度肝を抜いた。ベスト4進出の立役者は大会終了後に行われたU-18W杯日本代表にも選出され、ここでも四番の重責を任された。その圧倒的な飛距離と将来性は「松井、清原級」と絶賛されている。
2年生の春、夏と持ち前のパワーに磨きをかけて高校通算の本塁打はすでに74本。同時点のペースとしては松井を凌ぎ来年の卒業近くになれば100発も夢ではない。だが、5期連続の甲子園を夢見たものの現実は予選の壁にはね返されてきた。主将に任命された新チームでやっと結果を出した。
もっとも怖いもの知らずで暴れまわった1年時と立場も変われば、ライバル校のマークも格段に厳しくなった。その証拠に決勝の日大三戦では5打数5三振。公式戦では初の屈辱を味わっている。相手エースの桜井周斗はプロも注目する左腕だが、内角を鋭く突かれて最後は外に大きく曲がるスライダーにしてやられた。都大会では準々決勝の関東一戦もノーヒットに抑え込まれている。
清宮ほどの逸材になると、相手もまともな勝負を避けて四球や死球でも“やむなし”の姿勢でやってくる。相手のペースにはまっていくか? 打席の中で辛抱して数少ない失投を見逃さずに仕留めるか? 歴代の強打者が悩み、はね返してきた大きなポイントに17歳の少年が差し掛かっているのかも知れない。
気になる来秋の去就
来年の秋には間違いなくその去就に球界が揺れているはずだ。父の克幸は元早大の名ラガーマン(現ヤマハラグビー部監督)という経歴もあり早大進学の可能性もあるが、これだけ将来性のある大砲候補をプロが指をくわえて見守るはずがない。
「現時点でドラフトの1位競合は間違いない」と在京球団のスカウトは語る。それを象徴するように決勝の行われた神宮球場にはソフトバンク、巨人、DeNAの3球団スカウトと、何と日本ハム監督・栗山英樹の姿まであった。球団別のお家事情を解説してみよう。
ソフトバンクは球団会長である王貞治の母校だけに文字通り「王二世」として獲得したい。巨人は若手の伸び悩みに加えてスター選手は何が何でも欲しい。DeNAは主砲の筒香にメジャー志向があり、もしもの時に備えたいという事情がある。そして監督自らが早くも出馬?の日本ハム。こちらも二刀流・大谷翔平のメジャー流出が現実になれば、それに代わるスーパースターの獲得は至上命題となる。
「今の清宮ではプロに入っても苦労する。上半身に頼ったバッティングは金属バットの弊害で、もっと下半身を鍛えていかないと厳しい」。匿名を条件に元スカウトの厳しい評価もある。一塁しか守れないという打撃以外のウィークポイントを指摘する者もいる。だが、誰にも真似のできない天性の飛距離と存在感にスター性を併せ持った高校生はそうそういないのも確かだ。
明治神宮大会という試金石
今、直面する打撃の壁をどう打ち破っていくか? 今月の12日には全国の秋季大会を制した強豪が集う明治神宮大会で静岡高と初戦で激突する。同校のエースである池谷蒼大もまた最速144キロの速球とスライダーを駆使する怪腕だ。清宮の現状を占う試金石の場と言えるだろう。難関を克服して来年春、甲子園に戻ってきた時に怪物伝説第2章の幕は開く。
文=荒川和夫(あらかわかずお)