覚醒した天才打者
2016年、セ・リーグの首位打者と最高出塁率のタイトルに輝いた巨人・坂本勇人。春先から取り組んだ打撃フォーム改造が奏功し、2012年の最多安打以来となる個人タイトルを手にした。
昨季までの坂本といえば、どこか物足りなさも感じてしまうシーズンが続いていた。2010年に打率.281、31本塁打、85打点を記録して以降、本塁打は毎年15本前後にとどまり、打率3割を超えたのは.311をマークした2012年のみである。
周囲が「物足りない」と感じてしまうのも仕方がないことなのかもしれない。坂本は早くからその才能を開花させた、ごく限られた選手のひとりだったからだ。
高卒2年目の2008年、二岡智宏の負傷もあって遊撃手のレギュラーを奪取すると、3年目の2009年には打率.306、18本塁打、62打点と大ブレイク。若くして巨人の顔となった。
1970年以降でわずか7人だけ
実は、坂本のように「高卒3年目以内に打率3割」を達成した選手というと、長いプロ野球の歴史のなかでもほんのひと握りになる。1970年以降に限れば、以下の7人のみだ。
【高卒3年目以内での打率3割達成者】※1970年以降
掛布雅之(阪神/1976年) 打率.325(406-132) ☆3年目
清原和博(西武/1986年) 打率.304(404-123) ☆1年目
立浪和義(中日/1990年) 打率.303(511-155) ☆3年目
前田智徳(広島/1992年) 打率.308(493-152) ☆3年目
イチロー(オリックス/1994年) 打率.385(546-210) ☆3年目
城島健司(ダイエー/1997年) 打率.308(432-133) ☆3年目
坂本勇人(巨人/2009年) 打率.306(581-178) ☆3年目
こう見るといきなり史上初の200安打を達成したイチローの成績が突出しているが、ほかにも天才と称される“超一流”の好打者が居並ぶ。
たとえば城島健司の場合、捕手というポジションを考慮すれば数字以上に評価されるべきだろう。また、ただひとり高卒1年目で打率3割に達した清原和博は、史上最年少の3割打者でもある。
鈴木誠也や山田哲人も...
もともと投手に比べてプロの壁が高いといわれる野手。ましてや心身ともに成長途上の高卒選手の場合、プロ入り早々に出場機会を得るだけでも大したもの。そのうえで打率3割に乗せるとなると、それこそ球史に名を刻む選手に限られる。
今シーズン大ブレイクを果たした鈴木誠也(広島)や、坂本同様に早熟だった山田哲人(ヤクルト)でも、初めて打率3割に達したのは高卒4年目のこと。「高卒3年以内の打率3割」というハードルがいかに高いかが分かるだろう。
若き日の坂本が一気にスターダムをのし上がっていった様は、いま思い返してもセンセーショナルであった。ここ数年は伸び悩み感があったものの、今季の飛躍を見るとやはり“超一流”の選手だったのだと認識を改めさせられる。
そんな坂本も28歳。そろそろ円熟期に差し掛かると言っていい。近年停滞した分を取り戻すような“超一流”の活躍を、来季も見せてほしいものだ。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)