打率は1割台も、出塁率は5割に迫る!?
日本一3連覇の偉業に挑むソフトバンクが苦しんでいる。ここまで開幕から10試合を消化し、3勝5敗2分の5位。まさかの借金生活からのスタートを強いられ、去年見せたような“圧倒的”な感覚はない。
苦戦の理由のひとつに挙げられるのが、柳田悠岐の不調だろう。
昨シーズンはプロ野球史上初となる首位打者&トリプルスリーの偉業を達成し、飛ぶ鳥を落とす勢いで打ちまくった男であるが、ここまでの10試合で打率.188、1本塁打、1打点とらしくない数字が並ぶ。
昨オフに右肘の手術を行い、キャンプは二軍からのスタート。練習では豪快な打撃を披露しながらも、常に不安を抱えながらの調整を強いられた。もどかしいところではあるが、選手生命を脅かしかねない箇所だけに、慎重にならざるを得ない。
しかし、そんな大不振の中でも目を引く数字がある。“四球の数”だ。
ここまで開幕から10試合連続で四球を選び、積み重ねた数は16個。その結果、ここまで規定打席到達者の中では5番目に悪い打率でありながら、出塁率は上から数えて2番目の.458。半分近い確率で塁に出ることができているのだ。
いよいよ王貞治氏が持つ連続試合四球の日本記録「18」も近づいてきており、シーズン換算すると228個のペース。まだまだ気は早いが、王貞治氏が持つシーズン記録「156個」を軽く塗り替えてしまうような勢いで四球を取っているのだ。ちなみに、シーズン四球数の歴代トップ10は以下のようになっている。
【シーズン四球数トップ10】
1位 158個 王貞治(巨人/1974年)※130試合
2位 142個 王貞治(巨人/1966年)※129試合
3位 138個 王貞治(巨人/1965年)※135試合
4位 130個 王貞治(巨人/1967年)※133試合
5位 128個 金本知憲(広島/2001年)※140試合
6位 126個 王貞治(巨人/1977年)※130試合
7位 125個 王貞治(巨人/1976年)※122試合
8位 124個 王貞治(巨人/1973年)※130試合
9位 123個 王貞治(巨人/1963年)※140試合
9位 123個 王貞治(巨人/1975年)※128試合
このように、トップ10の9割は王貞治氏が占めるというまさに“独壇場”。柳田はこの中に割って入ることができるか。いや、これらすべてを超えて行くことができるか。早くも期待が高まる。
“試練”を乗り越え、日本一3連覇へ...
また、柳田のすごさを表すデータをもうひとつ挙げるとすると、近年日本でも馴染みが出てきたセイバーメトリクスの指標のひとつに「IsoD」というものがある。
“Isolated Discipline”、直訳すると「分離された自制心」。求め方は「出塁率-打率」という至ってシンプルなもので、ざっくりいうと「安打以外での出塁率」を指す。
主に選球眼の良さを計るのに用いられる指標で、7分から8分で好打者、1割を超えるようならかなり優秀とされるところだが、現在の柳田のはなんと.270という数値を叩き出している。
要するに、3割近い確率で安打以外で塁に出ているということ。打率が低いのは不振だけでなく、そもそも打てるボールが来ていないということも言える。
ちなみに、歴代1位の四球数を稼いだ1974年の王貞治氏でもIsoDは.199。安打以外での出塁は2割にも満たない。それも、これが2リーグ制以降のプロ野球では歴代No.1の数字となっており、すなわちIsoDが2割を超えた打者というのは未だかつていないのだ。
四死球が多いということは必然的に打数も抑えられており、1本の安打によって上がる打率の幅と言うものも大きくなる。そのため、これから復調して行くにつれてこの数字も徐々に落ち着いてくることは予想されるが、それでも開幕からここまでの柳田が実に興味深い活躍を見せているというのは間違いない。
昨年の活躍によって警戒されているのはもちろんのこと、1・2番がハマっていないことや、李大浩の退団によって後続の迫力がやや欠けたことなど、柳田が歩かされる理由は様々にある。その中で、いまや球界の顔になった男はどのようにしてチームを引っ張っていくのか。今年はソフトバンクにとっても、柳田にとっても“試練の年”となりそうだ。