奮闘見せる東大野球部
5月7日の東京六大学野球で、“事件”が起こった。東京大学が立教大学を4-0で下したのだ。
今季の東大は明治大からも勝利を挙げるなど、勝つこと自体にはそれほど驚きもなくなってきているのだが、この試合ですごかったのが先発した3年の宮台康平が完封勝利を飾ったことだ。これは東大の投手では実に11年ぶりという快挙であった。
宮台は、昨年の秋季リーグ戦で法政大から初勝利を挙げており、今回の勝利が通算2勝目となる。178センチ・63キロと小柄な体格ではあるが、テイクバックの小さいスリークォーター気味のフォームから繰り出される145キロの直球はキレ味抜群。そこにスライダーやカーブを織り交ぜた投球で相手を封じ込める。小気味のよい投げっぷりは玄人好みで、早くもプロ野球のスカウト陣がマークしているという。
これで東大は2008年秋以来のシーズン2勝。その後は立大相手に連敗を喫し、悲願の勝ち点奪取とはならなかったものの、今年はこれまでとは違う戦いぶりで他大学もうかうかしていられなくなってきた。
大正14年に始まった東京六大学連盟。東大は当時、帝大と言われた。昭和になると、一時は早大が脱退するなどの紆余曲折を経て、90年以上の間、東京六大学リーグ戦はその歴史を積み重ねてきた。
その長い歴史の中で、東大だけが一度も優勝をしていない。東大の最高成績は2位。これは昭和21年春のことで相当古い話である。また、リーグ戦での最多勝利は6勝。これは昭和56年春のことだ。
優勝経験がないのは東大だけ...
俗に「赤門旋風」と呼ばれ、このころの東大はひと味もふた味も違った。
昭和56年春は、初戦で法大と対戦。当時の相手には小早川毅彦や西田真二、木戸克彦ら、後にプロでも活躍を見せる顔ぶれが揃っていたが、1回戦は大山雄司が力投。6-2で勝利を収める。
勢いに乗った東大はさらに早大、慶大にそれぞれ連勝。勝ち点を掴む。最終的な順位は4位だったが、東大は大きな存在感を示した。
国立高校を都立高校初の甲子園へと導いた、市川武史が東大野球部に入部したのもこの頃のこと。通算7勝を挙げるなどの大活躍を見せたが、東大を悲願の優勝へと導くことはできなかった。
ちなみに、各大学の優勝回数は早大の45回が最多。次いで法大の44回、明大は37回、慶大が34回と続き、立大は12回。そして東大だけが未だ優勝していないのだ。
今後の戦いぶりにも期待!
「野球は投手力が8割、あとは運だ」。かつて野球評論家がこのように話したことがあった。
それでいくと、今の東大は近年稀に見る投手陣を誇っている。エース左腕の宮大だけでなく、宮台と同じ3年の柴田叡宙や、2年生の有坂望が好投を見せており、さらに復活が待たれる“東大史上最速右腕”こと山本俊もいる。勝ち点獲得だって今や“悲願”ではなく手の届く“目標”となりつつあるのだ。
強力投手陣を武器に、まずは勝ち点の獲得。そしてその先にある優勝へ…。東大の奮闘が野球界を盛り上げる。