念願のメジャー初登板も収穫と課題がはっきりした和田
岩隈久志(シアトル・マリナーズ)と和田毅(シカゴ・カブス)が、MLB選抜の一員として日本のファンの前で久しぶりにプレーした。両投手ともに第2戦で登板し、岩隈は4回5失点、和田は1回2/3で2失点とほろ苦い凱旋登板になったが、彼らのピッチングを心待ちにしていたファンも多いことだろう。
改めて、和田、岩隈両投手の今季を振り返ってみよう。
約2年に及ぶケガとの戦いから復帰した和田は、7月8日に念願のメジャー初昇格を果たした。28日のロッキーズ戦でメジャー初勝利をあげ、シーズン通算では4勝4敗、防御率3.25と結果を残した。奪三振率7.40、与四球率2.47、1イニングあたりに許した走者の数を示すWHIPは1.24といずれも及第点を言える数値だ。
課題は、フライアウトが多い点と右打者対策だ。
メジャー初登板後、1カ月ほどはゴロアウトを打たせることに長けていた和田だったが、相手打者が慣れたのもあるのか、8月以降はフライアウトの割合が増していった。
ゴロアウトとフライアウトの比率を表すGO/AOが7月は1.06だったが、8月に0.64と大きく下げ、9月も0.71と1.00を下回った。150キロを超えるストレートを投げるわけではなく、制球力で打者と勝負するタイプの和田には、より低めに投球しゴロを打たせることを心がける必要がある。
左右打者別の成績も好対照なものとなっている。左打者は被打率.184と抑えたが、右打者に対し.270。左右で1割近くも違うのだ。今季の被本塁打7本は、いずれも右打者に打たれたものだった。
カブスは、シーズン終了後にリック・レンテリア監督を解任し、今季限りでタンパベイ・レイズを退団したジョー・マドン氏を新監督に迎えた。最優秀監督賞を2度受賞するなど、メジャー屈指の名将だ。カブスがワールドシリーズに進出したのは1945年が最後。世界一となれば、1908年までさかのぼる。
来季、メジャー4年目を迎える和田。名将の下、フルシーズンで活躍し、チームを107年ぶりの歓喜へと導けるだろうか。
日本が誇る精密機械 岩隈の制球力はメジャー屈指!
メジャー3年目のシーズンを自己最多の15勝で終えた岩隈。勝ち星以上に強烈なインパクトを残したのが、与四球の少なさだ。
与四球率1.06は、規定投球回に達したメジャーの投手の中で2番目に少ない。8月を終える頃までは、シーズントータルの与四球数が勝利数と同じという驚異的な成績を残していた。シーズンで勝利数が与四球数を上回った投手は過去に3人しかおらず、岩隈が4人目の快挙となるか注目された。9月に調子を落とし快記録とはならなかったが、制球力の高さを存分にアピールした。
ただ、9月は制球力だけでなく全体的に調子を落としてしまい、防御率は7.61、被打率.290。シーズン終盤に打ち込まれたことを思えば、来季は、シーズンを乗り切るスタミナが求められる。
岩隈の長所は、制球力だけではなかった。今季、相手走者が8回盗塁を仕掛けたが成功は0。規定投球回に達したメジャーの投手の中で、盗塁を1つも許さなかった投手は岩隈以外にフィスター(ナショナルズ)しかいない。フィスターが盗塁を仕掛けられたのは1度だけ。回数を考えれば、岩隈はメジャーで最も走りにくい投手とも言える。当然、キャッチャーの肩に頼る部分も大きいが、日本仕込みのクイックモーションがメジャーを席巻したということになる。
和田と岩隈は、田中将大やダルビッシュ有のようなスピードボールを投げるわけではない。力よりも“技で抑える”タイプの投手が活躍することは、多くの日本人投手の励みになるはずだ。来季、どんなピッチングで魅了してくれるか、注目すべき2人の日本人投手である。
(注)ゴロアウト/フライアウト比率(GO/AO )
セイバーメトリクスの指標のひとつで、ゴロアウト(GO)の総数をフライアウト(AO)の総数で割り、ゴロアウトとフライアウトの比率を調べる指標。同じ数の場合は1となり、これより数値が大きくなるほどゴロアウトの割合が高く、数値が小さくなって0に近付くほどフライアウトの割合が高い投手となる。
文=京都純典(みやこ・すみのり)