ベテランと引き換えに期待の若手を失った巨人
巨人にFA移籍した相川亮二の人的補償として、ヤクルトが奥村展征を獲得した。
昨季、12球団随一の打撃陣を誇りながら投手の駒不足に泣き2年連続のリーグ最下位に終わったヤクルト。戦力として計算できる投手、あるいは守備力に難がある外野手を獲得するものと見られたが、ふたを開けてみれば獲得したのは高卒2年目の内野手。なかなかなサプライズで、オフの大型補強を締めくくった。
巨人入団1年目の昨季、奥村は主に二塁手として2軍では高卒新人チーム最多の86試合に出場した。その起用のされ方から見ても、巨人が大きな期待を寄せていた選手であることが伺える。
奥村が入団した2013年のドラフト後に、実績のある片岡治大と井端弘和のダブル獲得で球界をにぎわせた巨人だが、裏を返せばそれだけ内野手が不足していたということでもある。巨人ほどの強豪であっても、1軍で通用する若手内野手を育て上げることは容易ではないのだ。
やはり、生え抜きの1軍内野手候補を一人失ったことは痛手だ。
ドラフト指名までの苦労は水の泡……?
皮肉なことに……ヤクルト入団が決まるその瞬間まで、奥村がともに合同自主トレをしていたのがその井端であった。
今年で40歳の大台に乗る井端に残された選手生命は、普通に考えればそう長くはない。井端本人もレギュラーを諦めたわけではないにせよ、奥村から直談判され、一緒に自主トレを決行。将来の巨人を背負う選手にすべく、自身の経験、技術を奥村に伝えていたのである。
しかし、38歳の相川を獲得したがために、在籍わずか1年で19歳の奥村は移籍することとなった。中村悠平の台頭により正捕手のめどが立ったヤクルトにとっては、衰えが見える相川を“放出”して将来有望な若手内野手を手に入れたという見方ができる。
もちろん、巨人は必要な戦力だと判断したからこそ相川を獲得したのだろうし、奥村が大成するかどうかは現時点では誰にも分からない。
ただ、頼りになるベテランと同様に、若手にも“重み”ともいうべきものがある。新人の入団に至るまでには、それこそ幾度となく担当スカウトがグラウンドに足を運び、将来のチーム編成を見据え、そして時には他球団と駆け引きをしながら……ようやく獲得にこぎ着けるのである。
それを思えば、奥村の担当スカウトの悔しさは、察するに余りある。
巨人には、2013年オフにFAで獲得した大竹寛の人的補償で広島に移籍した一岡竜司が新天地でいきなり大活躍した例もある。もしかしたら、数年後の巨人は奥村の“重み”、若い選手の“重み”を改めて感じることになるのかもしれない。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)