調子が上がらない昨季のサイヤング投手
現役メジャーで最高の投手といわれ、27歳にしてサイヤング賞を3度受賞しているクレイトン・カーショー(ドジャース)が苦しんでいる。ここまで6試合に登板し僅か1勝(2敗)、防御率は3.72と球界のエースとしてはかなり物足りない数字だ。そのカーショー以上に不調に陥っているのが昨季ア・リーグのサイヤング賞に輝いたコリー・クリューバー(インディアンス)だ。今季7試合に登板し、0勝5敗、防御率は5.04。昨季のサイヤング賞投手2人が合計1勝しか挙げられていない。その要因とは?
大きな要因の一つは「運のなさ」だ。メジャーリーグでよく用いられる指標の一つに「BABIP(Batting average on balls in play)」と呼ばれるものがある。日本語では「インプレー打率」ともいわれ、本塁打以外のフィールド上に飛んだ打球が安打になる確率を示す指標だ。平均的なBABIPは.300前後で、球場や守備の影響もあるが、.300よりも高ければ、打者にとって運が良いとされ、低ければ逆に投手が幸運というわけだ。「ボテボテの内野安打」や「安打性のライナーが好捕された」など、幸運・不運なプレーを思い浮かべていただければイメージが湧くだろう。
さて、2人のBABIPを見てみると、カーショーは今季.348で、.300を大きく上回っている。昨季の数字は.278、通算でも.273と例年2割台後半の数字を残している。今季登板した6試合は不運なケースが多かったと言っていいだろう。さらに得点圏に走者を背負った場面ではBABIPが.455まで跳ね上がる(昨季は.273)。ピンチの場面でフィールドに飛んだ打球のほぼ半分が安打になっている計算だ。カーショーらしからぬ防御率はこの辺りが大きく影響しているのは間違いない。クリューバーも同様に今季のBABIPは.364と昨季(.316)、通算(.329)に比べやや高めになっている。カーショーほどではないが得点圏時でも.400と昨季の.295に比べると運のなさがうかがえる。
では今後2人の成績は改善するのだろうか。長いスパンで見ればBABIPはその投手の平均的な数字に近づくはずなので、両投手とも今よりも悪くなることは考えづらい。またFIP(Fielding Independent Pitching)の数字を見ると、カーショーは2.82。クリューバーは3.20となっている。FIPとは運や味方の守備力の影響を取り除いた投手の純粋な能力をはかるための指標である。本塁打や四球、三振といった項目から算出され、長い目で見ればFIPの数値と防御率の数値は近い値になると言われている。両投手とも今季ここまで、運や守備の要素を除いた能力的には防御率3.00前後の投球を見せていることになる。
1年前のこの時期(5月10日時点)を振り返ると、カーショーは故障の影響もあり2試合2勝0敗、防御率0.66。クリューバーは8試合3勝3敗、防御率3.48だった。両投手ともその才能は折り紙つき、あとは“運”を味方につければ、昨季のようなペースで白星を積み重ねていく可能性は高い。