一世を風靡した「アライバコンビ」
10月24日、巨人・高橋由伸の現役引退と監督就任が発表されたその翌日のこと。高橋と同じ40歳のチームメイト・井端弘和も、今年限りで現役を引退することを明らかにした。
「由伸より先にやめることがあっても、長くやることはないなと思っていました」
引退会見でそうコメントした井端。高橋から引退報告の電話を受け、すぐさま自分も引退することを球団に連絡したという。
中日で16年、巨人で2年。ドラフト5位という下位指名でのプロ入りながら、プロ18年間で積み上げた安打数は1912本。ベストナイン5回、ゴールデングラブ賞は7回受賞。2013年の第3回WBCでは、ブラジル戦、チャイニーズタイペイ戦で同点打を放った。この神がかった活躍ぶりは、今後も語り草になるだろう。
井端といえば、中日時代に組んだ荒木雅博とのキーストーン(二遊間)、「アライバコンビ」で一世を風靡した。
2004年から2009年まで、このコンビは6年連続でゴールデングラブ賞を受賞している。セカンド・荒木がバックハンドでゴロを捕球し、グラブトスを受けたショート・井端が間髪入れずに一塁へスロー。この華麗なプレーに魅了されたのか、今でも高校野球界では多くの二遊間が「アライバプレー」を模倣している(その多くがあえなく失敗している)。
送球に乱れが出てもすぐさまカバー
ともに球史に残るような名手だったが、荒木はスローイングにやや不安があると言われていた。一方、井端はいつも堅実なプレーで、スローイングに関しては何も問題はないように見えた。しかし、巨人移籍後に取材した際、井端は意外なことを口にした。
「長いシーズンのなかで、いつもと同じように投げているつもりでも送球が乱れて、イップス気味になることがあるんです」
井端ほどの守備名人でも、時には送球に不安を覚えることがあったのだという。そんな時、井端は腕の振りをサイドぎみに変えるなどして対処していた。そして再び感覚が戻ったと感じられたら、もとの投げ方に直していたのだ。
そのため、日頃からキャッチボールでは常に同じ腕の振りで投げるのではなく、さまざまな軌道から投げる訓練をしていたという。こうした人知れず努力を積み重ねた結果、井端の名人芸は築き上げられたのだ。
現役生活を終え、来季からは巨人の一軍内野守備走塁コーチへの就任が決まっている。珠玉の技術を受け継ぐ人材は誰になるのか。あの鉄壁の守備も、芸術的な右打ちももう見ることはできないが、「井端コーチ」の手腕によって新たな名手が現れることを祈りたい。
文=菊地高弘(きくち・たかひろ)