年俸の高騰を防ぐ目的で始まった制度
シアトル・マリナーズは現地時間の6日、フリーエージェントの岩隈久志投手に対し1580万ドル(約19億4000万円)の1年契約を掲示した。今回、岩隈が掲示されたのは「クオリファイング・オファー」制度によるものだが、この制度とは一体どういったものだろうか。
クオリファイング・オファーは2012年、年俸の高騰を防ぐことを主な狙いとして導入された。
まずMLB機構が、その年の年俸総額上位125選手の平均を算出して、FAの選手が、その金額に相当すると球団が判断した場合に掲示する。今回、岩隈がうけた1580万ドル(1年契約)は、今年の年俸総額上位125選手の平均というわけだ。
掲示された選手は、ワールドシリーズ終了から12日以内に(今回の岩隈は現地時間の13日まで)オファーを受けるかどうか決めなければならない。仮に、クオリファイング・オファーを拒否しても、旧所属球団との交渉は可能だ。
そして、クオリファイング・オファーを拒否し、その後の契約交渉でも決裂して他球団に移籍した場合、旧所属球団は移籍先の球団から翌年のドラフト最上位の指名権を得る。旧所属球団は、実質1巡目の指名権を2回使えるようになるようなものなのだ。
ただし、その年の成績がメジャー30球団中下位10球団のチームに移籍した場合、そのチームの1巡目指名権はプロテクトされ、それ以降の最上位指名権を選手の前所属球団へ譲渡するという仕組みになっている。
形骸化しているクオリファイング・オファー制度
岩隈以前にクオリファイング・オファーを掲示された日本人選手を振り返ると、2012年の黒田博樹(当時ニューヨーク・ヤンキース)もそうだった。黒田はヤンキースから掲示されたクオリファイング・オファー1330万ドルを拒否。その後新たに1500万ドル+出来高で契約した。
黒田に限らず、クオリファイング・オファーで掲示された金額で残留を選択した選手は、これまでにひとりもいない。2012年から昨年までにのべ34人の選手がクオリファイング・オファーを掲示されたが、すべての選手が拒否しているのである。
前述したように、クオリファイング・オファー制度が導入された本来の目的は「年俸の高騰を防ぐこと」や「再契約に際し、球団が妥当と思われる金額で交渉したが決裂し、選手が去ってしまったときの補償」というものがあった。
しかし、実情は補償に関しては機能しているものの、年俸に関しては「FA選手がより高額な年俸で契約できるために、代理人と球団間でのベースラインのひとつ」になっている。岩隈に対しても、アメリカのメディアは最終的に3年4000万ドル~4500万ドルでの攻防になるのではないかと予想している。ある意味、形骸化しているともいえ、今後この制度がどのようになっていくのか気になるところである。
文=京都純典(みやこ・すみのり)