「がばい旋風」の陰で...
2007年・夏の甲子園決勝。広島代表・広陵高は佐賀代表・佐賀北高に対し、8回表まで4-0と優位に試合を進める。
ところが8回裏、守る広陵は一死満塁から押し出しで1点を失うと、つづく佐賀北の3番・副島が振りぬいた打球は、レフトスタンドに吸い込まれた。
奇跡の逆転満塁ホームラン。そのまま試合は佐賀北が制し、甲子園初優勝。この快進撃は「がばい旋風」として世間にも広く知れ渡った。
その一方で、涙を飲んだ広陵。この時のバッテリーが、投手・野村祐輔と捕手・小林誠司。2人はこの悔しさを糧に、後にプロの世界へと身を投じることになる。
順風満帆な歩みも、ここ2年は苦しむ野村
エースの野村は高校卒業後、明治大へ進学。すぐに頭角を現すと、明治のエースとして大活躍。通算30勝を挙げ、東海大の菅野智之(巨人)、東洋大の藤岡貴裕(ロッテ)とともに「大学ビッグ3」と呼ばれるまでになった。
2011年、秋のドラフト会議では高校時代を過ごした広島からドラフト1位で指名を受ける。即戦力のルーキーとして期待された野村は、開幕から先発ローテーション入りを果たし、1年目ながら9勝11敗を記録。防御率はチームの先輩・前田健太に次ぐリーグ2位の1.98という好成績で、新人王を受賞した。
そして、2年目の2013年にはプロ入り初の2ケタ勝利となる12勝をマーク。前田、バリントン、大竹寛らとともに強力な先発陣を形成した。
しかし、翌年は二軍降格を経験するなど7勝に終わり、昨シーズンは5勝止まり。ここ2年は不本意な結果に終わっている。
今シーズン、広島は前田がドジャースへ移籍し、先発投手陣の戦力ダウンは否めない。黒田博樹、ジョンソンが先発の軸となり、中継ぎから先発に復帰する大瀬良大地、そしてプロ5年目を迎える野村の活躍が大きなポイントになるのは間違いない。
正捕手獲りへ、阿部との勝負に挑む小林
高校時代に野村のボールを受けていた小林は、同志社大、日本生命を経て、野村のプロ入りから2年後にあたる2013年に巨人へドラフト1位で入団した。
「阿部慎之助の後継者」と期待された小林は、ルーキーイヤーの開幕戦から途中出場でデビューを飾るなど、63試合に出場。経験を積む。オフには日米野球のメンバーにも選出され、将来の侍ジャパンの正捕手候補としても大きな期待を受けた。
迎えた昨年、阿部のファーストへのコンバートを受け、小林にとって大きなチャンスの年となった。ところが、FAで加入した相川亮二やベテランの加藤健との併用となり出場は70試合止まり。レギュラー獲得には至らなかった。
今年は阿部がキャッチャーに復帰するため、正捕手争いはさらに厳しいものになるだろう。それでも、阿部や相川、実松、加藤といったライバルは皆ベテランなだけに、球団としては小林の台頭に期待する面が大きくなる。大学・社会人を経て3年目、小林はその期待に応えなければならない。
あの夏から早9年……。野村は前田の穴を埋められるのか、小林は阿部の後継者となれるのか。
広島と巨人で正念場を迎えている元広陵バッテリー。2人とも、今年が勝負の年になるだろう。