高卒ルーキーとして64年ぶりの「開幕カードで盗塁成功」
塁間が短く感じるほどの長いストライドで、あっという間に駆け抜ける俊足。そして、全身のバネを生かした強肩と勝負強い打撃で、昨夏の甲子園を大いに沸かせたオコエ瑠偉。
ドラフト1位で楽天に入団すると、その男はキャンプからオープン戦と注目を一身に集めた。
オープン戦では、13試合に出場して23打数4安打、打率.174。十分な結果を残したとは言い難いが、足と守備が期待されて開幕一軍入りを果たす。
3月26日のソフトバンク戦で代走として出場すると、プロ初盗塁を決めて見せた。高卒ルーキーの盗塁というと、昨季の淺間大基(日本ハム)と岡本和真(巨人)以来だが、開幕カードで盗塁を決めた高卒ルーキーとなれば、1952年の中西太(西鉄)以来で実に64年ぶり。ドラフト制後に限れば、オコエが初めての記録となる。
次は1988年に22盗塁を記録した立浪和義(中日)以来となる高卒ルーキーの2ケタ盗塁に期待がかかるが、気になる点もある。出場機会がとにかく少ないのだ。
4月12日現在、9試合に出場しているが、スタメンは4月3日の西武戦で1試合だけ。打撃成績は8打席で7打数ノーヒット。四球が1つに三振も1つ。盗塁、得点も1つずつとなっている。
キャンプからオープン戦にかけて対応力は見せているものの、オコエの打撃はまだ一軍レベルにはほど遠い。守備と走塁が一軍レベルにあることから出場機会を得ているのだろうが、このままでは打席での実戦経験を増やすことができない。
公式戦でオコエが経験したのはたったの“23球”
今季、オコエ以外の高卒ルーキー野手は12球団で育成枠を含めて18人いる。そのうち9人は二軍で実戦の打席に立っている。その選手たちの二軍での試合数と打席数は以下の通りだ(4月12日現在)。
平沼翔太(日) 19試合・69打席
姫野優也(日) 13試合・42打席
平沢大河(ロ) 14試合・56打席
大龍愛斗(西) 19試合・54打席
村林一輝(楽) 5試合・6打席
廣岡大志(ヤ) 19試合・87打席
渡邉大樹(ヤ) 11試合・10打席
青柳昴樹(De) 22試合・82打席
山本武白志(De) 18試合・40打席 ※育成枠
<二軍で出場機会なし>
堀内謙伍(楽天)、出口匠、山田大樹(楽天育成枠)、青木陸(広島)、網谷圭将(DeNA育成枠)。ソフトバンクの谷川原健太、茶谷健太、黒瀬健太、川瀬晃は三軍戦で出場経験あり。
二軍で出場経験のある選手のなかで、オコエよりも打席数が少ないのは楽天の村林だけである。一軍と二軍の違いがあるとはいえ、ほとんどの高卒ルーキーがオコエよりも実戦で投手の球を多く経験している。
オコエがここまで公式戦の打席で経験した球数は、たったの23球。1打席あたり3球で計算しても、ヤクルトの廣岡はすでに261球を経験していることになる。単純計算ではあるが、オコエとはすでに200球以上も差があるのだ。
球数の経験と比例して打撃の技術が上がるわけでもないが、経験しないとなにも得ることはできない。座学で打撃を磨いた選手はいないのだ。
現在一軍で活躍している高卒野手の多くも、ルーキーイヤーは二軍で多くの打席に立っている。川端慎吾(ヤクルト)は2007年に316打席、中田翔(日本ハム)は2008年に224打席、筒香嘉智(DeNA)は2010年に451打席をそれぞれ二軍で経験した。
オコエの守備と走塁はたしかに魅力だ。しかし、走攻守そろった選手に大きく育てるためには、いまこそ実戦での打席経験を増やしたほうがいいと思うのだ。
球団の英断を望みたい。
文=京都純典(みやこ・すみのり)