注目すべき“シーズン記録”とは?
開幕から1カ月が過ぎたメジャーリーグ。イチローの打棒復活や前田健太の鮮烈デビューなど、日本でも話題に上ることが多かったが、特に前田の失点に関する“記録”は日本だけでなく全米でも注目された。
そこで、開幕から1カ月が経った今、達成が期待できそうなシーズン記録に着目。まだ各チーム30試合も消化しておらず、少ない試合数だからこその記録も多いが、現時点のペースを基に5カ月後の最終成績をいくつか洗い出してみた。
打者編
1941年のテッド・ウィリアムスを最後に現れておらず、現代野球ではほぼ実現不可能とまで言われている大台だ。
現地時間4日の時点で、最も4割に近いのがナショナルズのダニエル・マーフィー。ここまで.398(98打数39安打)と近いところにいるが、残り全試合で5打数2安打を続けたとしても4割に届かない。
全盛期のトニー・グウィンやイチローなど、安打製造機と呼ばれた名だたる選手ですら達成できなかった。いかに難しい記録かがわかるだろう。
<本塁打>
本塁打のシーズン記録といえば、2001年にバリー・ボンズが記録した73本塁打だ。
今シーズンはロッキーズのノーラン・アレナドがチーム27試合で11本塁打を放っており、シーズン66本ペース。同僚のトレバー・ストーリーとナショナルズのブライス・ハーパーが10本塁打(60本ペース)でこれに続く。
ただし、ここ数年のメジャーは投高打低の傾向が強く、今季の本塁打王争いも最終的には40本台に落ち着くのではないだろうかと見られる。
<安打>
イチローが262安打を放ってから12年…。今季その数字に最も近いペースで安打を重ねているのが、打率のところで触れたマーフィーだ。
ここまで27試合で39安打という好ペースで安打を積み重ねているが、それでも234安打にしかならない。ちなみに、マーフィーの自己最多は2013年の188安打。12年前のイチローのすごさが改めてわかる。
<死球>
1900年以降のシーズン記録は、1971年にロン・ハントがマークした50個。驚くべきことに、3試合に約1個のペースでぶつけられていたことになる。
今年、それに近いペースで痛い思いをしているのがレイズのガイヤーだ。ここまで7個でシーズン43個ペース。本人は望んではいないのだろうが、いいペースで数字を伸ばしている。
しかし、このガイヤーという選手は控えの選手。打席数はチームトップの選手の半数にも及ばないのだ。仮に今後レギュラーに定着してシーズン500打席に達すれば60を超えるペースになるが、そうなった時にはケガが一番の気がかりだ。
投手編
<勝利>
現在のメジャーでは、先発投手の登板数は多くても年間で35試合ほど。1年間ローテーションを守ったとして、33~34試合となるのが一般的だ。
先発投手は打者に比べるとまだ登板数自体が少なく、ペースで語ってしまうと30勝以上の投手もちらほら。代表的なところでは、先月ノーヒッターを達成したカブスのジェーク・アリエッタ。ここまで6戦6勝と向かうところ敵なしといったところだ。30勝以上は難しいとしても、1990年以来となるシーズン25勝以上なら十分に実現可能な数字といえるだろう。
ほかにも、ホワイトソックスのクリス・セールがここまで6戦6勝。好調シカゴの2チームを引っ張るエースが、今季どこまで勝ち星を伸ばせるか要注目だ。
<セーブ>
長いメジャーの歴史の中でも、比較的歴史が浅いのがセーブ数である。シーズン記録は2008年にフランシスコ・ロドリゲスが達成した「62」。
セーブ数のタイトル争いは例年50前後になることが多く、シーズン60セーブも何度か出ていそうなイメージだが、ロドリゲスの1度のみなのだ。
今シーズンはドジャースのケンリー・ジャンセンがここまで10セーブをマークしているが、それでも60セーブに満たないペース。しかし、ナ・リーグ西地区は好投手がそろい、投手有利な球場も多いだけに、チームの状態次第ではジャンセンのシーズン記録更新も不可能ではないだろう。
チーム編
<勝利>
今シーズンはカブスの勢いが止まらない。ここまで20勝6敗で、勝率は.769を誇る。
この勝率を維持していけば、年間124勝に達するペース。イチローが渡米した2001年、マリナーズが116勝を挙げているが、これが1904年のカブスと並ぶシーズン記録。この数字に近づくことはできるのだろうか。今の戦力と勢いならば、記録更新も十分可能だとみているが、果たして……。
メジャーリーグを観戦する上で、勝敗と同じくらい楽しめるのが“記録”という側面だ。
イチローがシーズン安打記録を塗り替えたときも、ジョージ・シスラーという戦前に活躍した選手の名前が連日メディアを賑わわせた。全米でもそれほど知られていなかった選手と彼の記録を、メジャーリーグの“歴史の教科書”から引っ張り出したのがイチローだったというわけだ。
果たして、今シーズンは過去の歴史を呼び起こすようなシーズン記録は生まれるのだろうか。
文=八木遊(やぎ・ゆう)