7月快進撃の立役者・岩田に代わりエースとルーキーが終盤支える
例年、たとえ優勝を狙える、それどころか優勝間違いなしと思われる年であっても、シーズン終盤には半ば勝手にずるずると後退していく阪神。
今季も、交流戦後の反転攻勢を支えたひとり・岩田稔が、7月のセ・リーグ月間MVPを獲得したかと思えば、直後から3連敗。「何やら雲行きが怪しい……」。心配性のファンからは早くも不安の声が漏れていた。しかし、今季の終盤はむしろ明るい材料の方が多い。
8月9日の広島戦、それまで自身6連敗を喫していたエース・能見篤史が、5月24日ソフトバンク戦以来の勝利投手に。前回登板では勝敗こそつかなかったものの6回3失点となんとかゲームを作りチームも勝利。阪神が9年ぶりに覇権を握るためにはやはりこの男が欠かせないのである。
さらに、即戦力と期待されていながら今春キャンプ中に左肘を痛め出遅れていたルーキー・岩貞祐太が8月17日DeNA戦でプロ初勝利を挙げた。同じ新人左腕・岩崎優がすでに3勝を挙げているだけに、悔しい気持ちはあったはずだ。開幕から蓄積してきた疲労が投手陣にのしかかる終盤戦、若々しい岩貞の存在は頼もしい限り。
ついに花開いた練習の虫 伊藤隼太こそ鳥谷の後継者だ
野手では伊藤隼太の活躍が目覚ましい。
7月下旬からスタメンに名を連ねるようになり、特に今月に入ってからは、スタメン出場した10試合のうち6試合でマルチ安打を記録するなど、打率.410と大当たり。
打撃不調の福留孝介、守備に不安のある今成亮太、好不調の波が激しい新井良太らが日替わりで出場する阪神外野陣。もちろん打撃好調の維持という前提があるが、伊藤がどっかりと腰を据えてくれれば、これほど頼もしいことはない。
その伊藤、今や阪神の顔となった鳥谷敬とどこかかぶって見えないだろうか。ポジションこそ違えども、ともにエリートコースを歩んできたイケメンで、しかも真面目過ぎるほどの練習の虫。チームで1、2を争うといわれる練習量が現在の活躍を支えているのは間違いない。
伊藤の練習に取り組む姿勢が掛布雅之DC(育成・打撃コーディネーター)の目に止まり、付きっきりの熱血指導を受けたのが昨秋キャンプ。三度の本塁打王に輝いたミスタータイガースから得たものが、ついに実を結びつつある。
ファンの間で「次期ミスタータイガース」最有力候補に挙げられるのは鳥谷だが、本人から直接指導を受け「掛布チルドレン」と呼ばれるのは伊藤だ。いきなりミスタータイガースに、とはいわないまでも、まずは鳥谷のような生え抜きのスターになってくれることを願うばかりだ。
今週の阪神の対戦相手は中日と広島。CS出場圏内生き残りを賭け、両チームとももう負けられないと挑んでくるだろう。出場試合が少ないため単純に数字では測れないが、伊藤の球団別対戦成績で打率3割を切っているのが実はこの2球団。レギュラー定着のため、伊藤にとっても重要な試合となるはずである。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)