トミー・ジョン手術の影響は?
ダルビッシュのメジャー復帰登板が目前に迫ってきた。
昨年のスプリングトレーニング、この初登板で右上腕の張りを訴えると、翌日のMRI検査で右肘側副靭帯の損傷が判明。結果、トミー・ジョン手術を受けたダルビッシュは、2015年シーズンのすべてをリハビリに充てることとなった。
幸いにしてリハビリは順調に進み、今月1日にはマイナーリーグで復帰登板できるまでに回復。1日は2回32球、同6日は3回50球、同12日は4回54球、同17日は5回68球と徐々にイニング・球数ともに増やしていき、22日の“最終チェック”では6回を87球、3安打、1四球、6奪三振の無失点。
本人も納得の投球で、2014年8月以来となるメジャー復帰登板がいよいよ目前まで迫ってきた。
ダルビッシュの場合、リハビリといってもただ肘の状態を回復させただけでなく、体が一段と大きくなりパワーアップした印象を受ける。マイナーでの登板で記録した最速は158キロ。コンスタントに150キロ前後を記録するなど、以前よりも球速をアップしたダルビッシュが見られそうだ。
復帰が楽しみである一方、やはり不安なのは手術の影響だろう。アメリカのスポーツ専門テレビ局『ESPN』が出したデータによれば、1999年から2014年までの間、のべ235人の投手がトミー・ジョン手術を受けたが、そのうち32人が再手術を迫られたという。
2012年からの3年間に限れば、66人中19人の選手が再手術を強いられた。医療が格段と発達し、リハビリに関する知識が増えてもなお、再発を防げないことは頻繁にあるのだ。
また、1999年から2011年までに手術を受けた147人のなかで、復帰したシーズンに10試合以上投げた投手は67%しかいない。トミー・ジョン手術の成功率は90%とも言われているが、復帰した最初のシーズンで以前のような活躍を望むのは容易ではない。
「元に戻るだけでは意味がない」という強い思い
いつからか、「トミー・ジョン手術を受ければ手術前よりも球速があがる」という“噂”が流れ、アメリカのアマチュア選手のなかには健康な状態にあるにも関わらず、球速をあげるために手術を受けた選手もいたという。
当然そんなことはあるはずもなく、手術前よりも平均的な球速は少し落ちるのが現実。しかし、ダルビッシュの場合はどうだろうか。いまのところ球速が落ちているようには見えず、むしろあがっている。だがそれは、懸命なリハビリやトレーニングによるものであって、手術を受けたからあがったわけではないのだ。
ダルビッシュは常々、「元に戻るだけでは意味がない」と言ってきた。時に“ビッグマウス”と言われながらも有言実行を果たしてきたダルビッシュは、メジャー復帰後にどんなピッチングを見せてくれるのだろうか。
過去の術後におけるデータだけを見れば、いきなり以前のような快投を続けるのは酷なことかもしれない。でもこの男ならば、これまでの常識を覆してくれるのではないかという思いにさせてくれるのもまた事実だ。
このまま何事もなければ、メジャー復帰は28日(日本時間29日)のパイレーツ戦が有力とされている。大きな期待を持って、ダルビッシュの復帰登板を見届けたい。
文=京都純典(みやこ・すみのり)