白球つれづれ~第19回・掛布雅之~
金沢、岐阜、山梨、富士山、水戸、春日部。さて、これは何の共通項かお分かりだろうか? 答えは車のナンバープレートに標される登録所在地だ。これらの車が千葉県鎌ケ谷市の日本ハム・鎌ヶ谷スタジアムにやってきたのは6日のこと。主たるお目当てはかつての「ミスタータイガース」掛布雅之阪神二軍監督の関東初見参!しかも、故郷・千葉での凱旋興行だった。もちろん出身地の習志野ナンバーが最も多かったことは言うまでもない。それでも夏休みの帰郷が手伝ったとは言え掛布人気は今でもすごい。
リオ五輪開幕。甲子園では全国高校野球大会がいよいよ熱戦の火ぶたを切る。プロ野球に目を転じればセパ共に白熱の首位攻防戦。ビッグイベントが目白押しの8月、ファームでもそれらに負けぬほどの熱気があった。
イースタンとウェスタンの交流戦。日本ハムの本拠地に掛布阪神が乗り込んだ球場には黄色と黒の虎党たちが次々とやってくる。午後1時試合開始の数時間前にはビジターの陣取る一塁側のスタンドから人が埋まり、内野指定席は完売の盛況ぶりである。
「習志野の英雄が千葉に初登場」とは、今回の対戦を前に日本ハム側が用意した宣伝ポスターのフレーズだ。習志野高で頭角を現した掛布が阪神に入団したのは1973年のこと。ドラフト6位の入団は実質テスト生同然だった。しかし、入団1年目から非凡な打撃センスを買われて一軍の切符をつかむと順調にスター街道を駆け上り、本塁打王3回に打点王1回などの輝かしい実績を残していった。千葉の野球界はプロにも多くの人材を輩出している。筆頭格は長嶋茂雄で文句なしだが、ほかにも石毛宏典(元西武)、宇野勝(元中日)、谷沢健一(元中日)ら多士済々。そんな中でも人気実力ともに掛布が一時代を築いたのは間違いない。
「今回のゲームは日ハムさんから“掛布千葉登場”とやっていただいたようで有り難いことです。まあ、もう両親もなくなって最近は習志野に帰ることもないですが熱心なファンの声援はチームにとっても勇気になりますね」
背番号31の存在
背番号31が動くとやはり「華」がある。2013年秋に「GM付育成兼打撃コーディネーター」として古巣への復帰を果たすが、本格的な指導者としてユニホームに袖を通すのは昨年の金本阪神誕生から。実に27年ぶりのことだった。
「超変革」をチームスローガンとして臨んだ今季は思い切った若手の登用を行っている。昨年の二軍からは北條史也、陽川尚将、横田慎太郎らの若手が抜擢され、ある者はそのまま一軍切符を掴み、またある者は厚い壁に跳ね返されてファームで再挑戦を余儀なくされている。彼らにとって打撃理論に定評があり説得力もある掛布の存在は大きい。
「一軍で壁にぶつかるのもある程度は織り込み済み。上とも“明るく厳しく”の意思疎通は出来ています。自分としても現在の立場にやりがいを感じていますね」と指揮官は猛虎復活に手ごたえを感じている。
現役の絶頂期に故障だけでなく、交通事故を起こして当時の球団幹部の怒りを買ったこともある。引退後は副業の失敗などで金銭的損失も負っている。指導者への道が遅れた大きな要因だ。山あり谷ありの野球人生。それでも故郷の千葉に帰ってきた背番号31がグラウンドに姿を見せると熱烈な掛布コールが沸き起こった。ゲームは初戦を一軍経験のある秋山拓巳の好投と今成亮太の一発などでモノにすると、2戦目も接戦を制して連勝。人懐っこい掛布スマイルがあふれた。
文=荒川和夫(あらかわかずお)