このままいけば年間6本塁打で118打点!?
開幕から2カ月が経とうとしているプロ野球。セ・リーグでは昨年のキングである山田哲人と各球団の助っ人たちによる熾烈なホームラン王争いで盛り上がっているが、打点王争いの方にも“ちょっとした異変”が起きている。
ここまでのランキングを見てみると、広島の新井貴浩と阪神のマウロ・ゴメスが37打点でトップ。以下、丸佳浩(広島)がそれに次ぐ36打点を挙げ、ダヤン・ビシエド(中日)が35打点、ウラディミール・バレンティン(ヤクルト)とホセ・ロペス(DeNA)が34打点、山田哲人(ヤクルト)が33打点と強打者たちが続く。
各球団の中軸を打つ打者が並んでおり、一見すると何も不思議なことはないように思われる。しかし、各選手の「本塁打数」を見てみると、その“異変”に気がつくことだろう。
トップのゴメスが11本塁打で、ビシエドは13本塁打。バレンティンが12本塁打で、山田はリーグ最多の14本塁打をマーク。ホームランバッターではない丸も8本塁打を記録しているが、一番上に名前が載っている新井の本塁打は、たった「2本」なのだ。
ゴメスは37打点のうち実に21打点を本塁打で稼いでいるが、新井が本塁打で記録した打点はわずか4打点。犠飛や内野ゴロでの打点もなく、37打点中33打点はタイムリーで記録したものである。
たしかに、新井は得点圏打率.385という高い数字を残しており、チームメートの菊池涼介(.410)に次ぐリーグ2番目の数字となっているが、打点王争いでトップに並ぶふたりの打点の傾向にここまで違いがあるのは珍しい。
仮にこのままのペースでいけば、新井の今季の本塁打と打点は6本塁打、118打点になる計算だ。2リーグ制以降、打点王を獲った打者の最少本塁打は、1954年の渡辺博之(大阪タイガース)が記録した7本塁打(91打点)というもの。今季はまだ100試合近くを残しているが、新井は史上最少本塁打での打点王となる可能性を秘めている。
20本塁打未満での打点王もこれまでに8人だけ...
2リーグ制後、セ・パ各リーグで打点王を獲得した選手の平均本塁打数はともに35本塁打。打点を多く稼ぐ選手は、やはり本塁打も多く打っているというのが数字からも見えてくる。
シーズン20本塁打未満で打点王になった選手というと、前述の渡辺を含めて8人いる。ただし、そのうち5人は1950年代の選手だ。残りの3選手といえば、1993年に19本塁打で94打点を記録したロバート・ローズ(横浜)や、2010年に16本塁打で109打点の小谷野栄一(日本ハム)、そして2011年に17本塁打で93打点の新井である。
先日、新井が通算2000安打を達成した際のこと。快挙を伝える紙面に、関係者からの祝福のコメントが並んでいた。
それらのコメントともに「決して器用な選手ではない」、「これだけ不器用な男が18年間、がむしゃらに一生懸命やった結果」といった言葉が多かったことも印象に残っているファンも多いだろう。
「腰を痛めてしまわないか……」心配になるほどのフルスイングをどんなときでも見せる新井に、合わせた巧打のイメージはあまりない。シーズン100三振以上を記録することも珍しくなかったが、近年の新井はダイヤモンドの90度を実に有効に使っている。新井は、不器用ながらも広角に打ち分ける技術をコツコツと磨いてきたのである。今季、走者を置いた場面では逆方向への意識を特に感じられ、実際、タイムリーと本塁打を合わせた25本中18本がセンターから右への当たりなのだ。
2000安打を達成し、残されたのは悲願のリーグ優勝だけといっていい新井貴浩。彼が打点を稼けば稼ぐほど、チームの勝利数も増えてくる。
器用な打撃を習得した男が、広島を歓喜の渦に導けるか。本塁打はなくとも、とにかく勝負強い新井のバットから今後も目が離せない。
文=京都純典(みやこ・すみのり)