7つの選考基準から選出される沢村賞 全項目を満たし受賞した投手は過去に10人
今年度の沢村賞にはオリックスの金子千尋が選ばれた。金子は昨季、選考基準をすべて満たしながら、田中将大の24勝0敗という圧倒的な成績の前に受賞を逃していた。今季は完投数と投球回が基準を満たさなかったが、2年連続で好成績を挙げたことが評価されて自身初の受賞となった。
また、全投手が7つの選考基準を満たさなかったことに関し堀内恒夫選考委員長は「軽々には言えないが、見直さざるを得ない。野球界のシステムが変わってきた。クオリティースタートを考えてもいいという案もある」とコメントを残している。
そんな経緯を考慮して、シーズンで最も優れた先発完投型の投手に贈られる「沢村賞」の選考基準を改めて考えてみたいと思う。沢村賞は、1947年に雑誌『熱球』が企画し、私的表彰を始めたことに端を発し、後に特別賞として公の賞に認定された。50年の2リーグ制以降しばらくはセ・リーグの投手のみが選考対象だったが、89年からは12球団全投手が対象となっている。81年までは記者投票だったが、82年から選考基準が設けられ、元プロ野球投手による沢村賞選考委員会が選出する形となり現在に至る。
選考基準は、15勝以上、150奪三振以上、10完投以上、防御率2.50以下、200投球回以上、25登板以上、勝率6割以上の7項目である。選考基準をすべて満たした投手は、過去に10人(計12回)で、満たしながらも受賞できなかった投手は3人(計4回)いる。基準が設けられた82年以降で全基準を満たしたのが10人しかいないことからも、ハードルの高さが伺えるだろう。近年ではとくに完投数を満たさない投手が多く、最近10年で10完投以上を記録し沢村賞を受賞した投手は07年ダルビッシュ有(当時・日本ハム)、09年涌井秀章(当時・西武)、11年田中将大(当時・楽天)の3人だ。
投手の分業制が確立され、今季のソフトバンクのように強力なリリーフ陣を擁するチームがペナントを制することも増えた。堀内氏が指摘するように、まさしく野球界のシステムが変わってきたのである。
新たな選考基準としてあげられたQS WHIPやK/BBといった新たな指標も
では、新たな選考基準はどういったものがいいだろうか。
堀内氏があげたクオリティースタートは「先発投手が6イニング以上投げ、自責点を3以下に抑えた時」に記録される。それを先発登板数で割ったものがクオリティースタート率(QS%)で、セ・リーグのトップは78.3%の菅野智之(巨人)。パ・リーグのトップは84.6%の金子だ。ただ、極論になるが、ある投手がすべての先発登板を6回3自責点で終えるとする。その時のQS%は100%だが、防御率は4.50になる。QS%は、安定感を計る目安のひとつではあるが、投手の能力を計るものとしては少々物足りないという見方ができる。
そこで提案したいのがWHIP(※1)である。被安打と与四球を足し、投球イニングで割って算出する指標で、ざっくり言えば1イニングあたり何人の走者を許しているか、ということだ。今季のセ・リーグトップは1.10の菅野と前田健太(広島)。パ・リーグのトップは岸孝之(西武)の1.00だ。
走者を許さない投手ほど優秀という観点では、WHIPが最もわかりやすい数値だ。しかし、長打も単打や四球と同様にカウントされるため、長打を打たれやすい投手などはWHIPが示す数値ほどの成績は残せないとも考えられる。被安打は、自チームの守備力に左右されることからも、WHIPに否定的な意見があることも頭に入れておきたい。
WHIPの欠点である守備力や球場などに影響を受けない数値という点では、K/BB(※2)が挙げられる。運に左右されにくい数値で、投手の純粋な能力を数字で表すと考えられており、今季のセ・リーグトップは前田で3.93。パ・リーグのトップは則本昂大(楽天)5.23だった。
時代によって、野球を取り巻く環境も変わってくる。その時に応じた基準で最高の投手を決めることも必要なのではないだろうか。
(※1)WHIP(Walks plus Hits per Inning Pitched)
1イニングあたりに何人の走者を許したかを表す数値。
(被安打+与四球)÷投球回で算出する。一般的に先発投手であれば1.00未満で球界を代表するエース級、1.20未満ならエース級、1.40以上なら問題ありと言われている。今季、セ・リーグの平均は1.35、パ・リーグの平均は1.32。
(※2)K/BB(Strikeout to walk ratio)
奪三振を与四球で割った数値。投手の制球力を示すもので、一般的に3.5を超えると優秀と言われている。今季、セ・リーグの平均は2.23、パ・リーグの平均は2.14。
文=京都純典(みやこ・すみのり)